毎度と言えば毎度の事で3
うーむ。春。というわけで僕らは公園に花見に来ていた。ちょっと大きい公園で、幼児らは見受けられるも、花見をしているのは僕たちだけ。桜ももうちょっと踏ん張ってくれ。
「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし……か」
「でも桜が無いと花見も出来ませんよ?」
ソレも事実だね。ついでに花札も出来ない。花見で一杯。月見でも一杯。夜桜に春の月は酒が美味しいのだろう。飲んだ事は無いけども。まだ未成年な僕らでした。てなわけで涼やかな春風で身体を冷やし、華黒の持ってきた水筒のお茶で身体を温め、お弁当をパクつく。格別何がどうのでも無いけど、二人の弁当は美味しかった。
「この寿司もいいね」
「光栄ですよ。お姉さん」
黛がニッカリ笑う。君の作品ですか。手鞠寿司だ。手の中に握り込めそうな小さな寿司で、名称通りにまん丸している。煮豆。卵焼き。刺身のゴマ和え。手の込んだ料理は愛情すら感じる。そして何故か黛まで僕を気に入っているというこの状況よ。
「ロマンスの神様は残酷だ」
「お姉さんも結構残酷ですよね~」
サラリとこちらの意図を読まないで欲しい。
「女の子四人で花見ってのも乙なモノです」
一応男子なんですけど……僕。言っても聞いちゃあくれないか。
「はむ」
ローストビーフを食む。うーん。デリシャス。
「兄さん。お茶は入り用で?」
「貰う」
甲斐甲斐しく受け取り申す。
「うむ。美味し」
「それはようございました」
はにかむ愛妹。ぶっちゃけると、超絶可愛い。日本美人の集大成とでも申すのか。涼やかな笑いに華がある。豪快に笑うのではなく、微笑みを返すだけなのに見るモノを虜にする……とでも言うのか。動と静なら、静の極致。
「………………あう……」
「はい、そこ。落ち込まない。弁当作ってないのは僕も一緒だし」
「………………お兄ちゃんは……男だから……」
「そこで性差別を持ってこられても」
しかも自虐の形。普通こういうときって相手を否定するときに使う言葉じゃ無い? なんで自己否定に差別発言を組み込む?
「桜が綺麗なだけでも良しとしなさいよ」
「………………えと……うん……」
ぽそぽそと手鞠寿司を食べるルシール。超絶萌え。まぁ歩く姿が百合の花だし。
「はぁ。マジ可愛い」
ちなみに僕の発言ではござんせん。うっとりとりとりしているのは黛だ。元々彼女はルシールが超絶に好きすぎる。いやライクの意味で。百合ではない。ていうかそんなものは『あの人』だけで十分だ。ただ心に闇を抱えていて、場合によっては牙を剥く。
「ほ」
ま、実際に体験した身としてはなんとかかんとか。それについて謝罪は求めないし、その心の根幹は知っているので、責めるのも酷だろう。華黒にとっての僕が、黛にとってのルシールで、合致はしなくとも相似はする。そこにいかな連立方程式――この場合は恋立方程式か――が為されるのかは、まだしも人の届かない領域。どっちかってーと非線形に属する領域だろう。
「ふむ」
寿司をアグリ。チラチラ散る桜の趣よ。
「平和ですね~」
「そうだね。この四人が一番平和だ」
兄妹揃って同じ回答。かりに『彼奴』とか『其奴』が居れば、また違う展開が待っているのだろう。
「春のうららの隅田川」
「櫂のしづくも花と散る」
「ながめを何にたとふべき」
公園だけど。
「お姉さんお姉さん」
「はいはい?」
「あーん」
「あーん、む」
手鞠寿司を一口で。ボッとプレッシャーが発せられた。ま、そうなるよね。わかってやった僕がなんだって話だけども。黛もまた、暖簾に風、柳に釘、糠に腕押しのご心境。肝が据わっている……というより同類波長の影響か。
「ルシールもあーん」
「………………あーん……む……」
ぽそぽそと寿司を食べる。
「兄さん」
「あーんですか?」
「色んなものをあーんして良いですよ?」
ぎしぎしあんあーん。
「じゃあサーモンで」
「もうちょっとこうエッチになってくれても……」
この桜の咲いている天下の往来で?
「そこは春の日差しと桜の乱舞が隠してくれますから! 円盤になると外れますけど!」
ことこの次元に於いては残念なんだよね。華黒って。いやまぁ毎度の如くではあるんだけど。ちなみにルシールはいつも通りにルシーりながらぽしょぽしょと寿司を小鳥の様に摘まんでいた。こういうさりげない乙女アピールは嫌いじゃ無い。しかも天然と来る。
「対して華黒の妄念よ」
「兄さん何を考えていらっしゃいます?」
「華黒のこと」
「は! ついに!」
「三十六煩悩も大概にせーよ」
「前世も来世も必要ありません由……」
現世利益最優先で。どこのゴーストスイーパーだ。
「エロは世界を救うんですよ?」
多分エコと言いたかったんだろう。多分…………そのはず。
「さてそうなるとあの御方に生け贄を捧げなければ」
「嫌~…………」
本当に苦手なのね。基本的にこっちの話を聞かない同士でシンパシーはありそうだけども。アクティブかパッシブかの違いは在れども。可愛いは正義。
「煮豆煮豆」
黛はいつも通り。
「………………はわわ……あわ……」
ルシールはルシーりっていた。僕と華黒を見てオロオロ。
「気にしなくてもいいんじゃないですか?」
黛がフォローに入った。
「お姉さんのヘタレは筋金入りですし。本当にヤってできるならお姉さんは既にお姉様に食べられてますよ」
「………………赤ずきんと……狼みたい……」
言い得て妙な感触で。そうなると黛の「ヤってできる」の言葉が別の意味に聞こえるけど、それはそれで何だかな。「来ないの」とか言われても猟師さんは困るだろう。
「兄さん、あーん」
「あーん、む」
寿司を一口。まぁ世の中なんてこんなもので。
月やあらぬ春や昔の春ならぬ、わが身ひとつはもとの身にして。
ひさかたの光のどけき春の日に、しづ心なく花の散るらむ。




