毎度と言えば毎度の事で2
「手鞠寿司とかどうでしょう?」
「いいですね。その辺で行きましょう」
黛の提案に華黒が乗る。基本、家事担当の二人で、ついでに板に付いている。僕はと云えば家庭教師に勉強を見て貰っていた。華黒のコーヒーを飲みながら。
「………………えと……あう……その……」
「遠慮せずに言っていいよ?」
「………………計算……間違ってます……」
ルシールは相も変わらずルシーりっていた。数学の問題集。三次関数だ。数学って存在しないと現代文明は有り得ない。それが正しいか間違ってるかは那辺として、結局コンピュータとて零一だ。
「ルシールは頭が良いねぇ」
「………………えと……そんな……恐縮です……」
あわあわと慌てる紅顔。うーん。デリシャス。フっておいて何だけど、ルシールの愛らしさは天衣無縫だ。しかも金髪碧眼と来る。日本人形の華黒に対する西洋人形のルシール。甲乙付け難し。勉強よりも難しいのも何だかね。
「………………真白お兄ちゃんは……(ほにゃらら)大学に……行くの……?」
「無謀と思ってる?」
「………………そんなこと……ないよ……?」
「一応滑り止めも受けるけどさ」
「………………お姉ちゃんと……一緒……?」
「そう相成るか」
南無八幡大菩薩。ていうか普通に二人で一つのバ〇ム1。そこら辺はまぁ折り合いも付けて。大学になると華黒が暴走しそうで怖いんだけど。大人って業が深いのに、避けることの出来ない未来。なんだかなぁと思ったりして。
「ルシールは受験考えてる?」
「………………えと……あう……」
そこで怯まれるとどうすれば良いんだ。ルシールの小動物性は理解するも、なんだか悪者になった気分。可愛いは正義の同義語。実際にルシールは可愛いので、法廷裁判でも加点対象だろう。虫一匹殺せない純情さではあるも。
「ま、ルシールがルシーるのは何時ものことか」
「………………ごめんなさい……」
「謝らなくて良いよ。二年生になったばかりで受験の話も不細工か」
「………………一応……真白お兄ちゃんと……一緒の処に……」
「可愛い可愛い」
金髪を優しく撫でる。ルシーりっているルシールの赤面には万金の価値が在った。
「それでは兄さん」
「へぇへ。何でございましょ?」
「少し出かけてきます」
手鞠寿司って言ってたしね。ソレなりに刺身も必要だろう。
「行ってらっしゃい」
「ルシール。チャンスだよ?」
そこ。火を点けない。黛のエール……というか旗を振ってけしかける様に、華黒の眉が跳ね上がる。ほら言わんこっちゃない。火薬庫で花火を楽しむようなものだ。別にルシールに寛大なのは、ルシールの人徳とヘタレ具合の関係性であって、黛の挑発がソコに合算する謂われはなかった。グニッと華黒が黛の頬を引っ張って玄関まで消えた。
「痛いですお姉様~」
「愛故に」
ほざく華黒も中々だ。へのつっぱりはいらんですよ。
バタン。
玄関が閉じられた。
「………………あわ……あう……あわ……」
「落ち着いて。取って食べたりしないから」
うーむ。さっきの黛の戯言が聞いているらしい。幾ら何でもフった相手を手込めにしようなんて外道な真似は出来ないはずなんだけど。コーヒーを一口。
「処でコッチの接点なんだけど」
「………………それは――」
ルシール。後輩。年下。なのに普通に受験勉強に付いてくる。頭が良いのは流石と申すべきか。対外的な反射に対する能力はポンコツでも、頭脳やクオリアに関する限りこの子はあまりに明晰だ。それも通常からかなり幽離している。
「ふーん。じゃあこの時のaとbは……」
「――――――――」
そんな感じで問題を解いていく。数学はまだ分かる方だ。計算ミスはやらかすも、方程式そのものはあるのでパズルのように当てはめていくだけ。むしろ記憶より演算に注力すべしで……故にソレなりに点数はとれた。
「………………お兄ちゃんは……凄いね……」
「華黒のおかげだけどね」
ソコは真っ事違えない。完全に伏線だ。華黒は高校に入った瞬間から、僕を勉強漬けにしてきた。その間にも色々はあったけども。しかしアレだけのことがあって良く学校に通えてるね……僕と華黒。暫時的退学とその撤廃。白紙化という不条理を……けれども瀬野二の校長は受け入れてくれた。色々と慚愧の念に堪えない。
「………………お姉ちゃんは……凄すぎる……」
ま、パーフェクト超人ですし? それこそ蒙昧愚昧から醒めれば相応の幸せも掴めるでしょうに。何故に僕に惚れた? いや理屈は分かるんだけど、冷静に考えて釣り合っていないと申しますか。御本人に言ったら多分刺されるので、心の内だけに留めておく。
「南無三」
「………………何が……大変なので……」
「愛って何だろうとか」
「………………愛……」
呆然とし、後に赤面する。こういう純情さはルシールの強みだ。下手な男に騙されて弱みを握られなければ良いんだけど。そこら辺のプロデュースは黛に任せよう。
「ふむ」
さらさらと数学を解いていく。それにしてもルシールの可愛いこと。華黒と黛が居ないので、二人きり。赤面したりトランスしたり。ついでにこっちの勉強指導をしたり。可愛いのなんのって……まぁコレも言わないんだけども。
「………………お兄ちゃん……良く出来る……」
「それなりにね」
華黒の指導もあるわけだし。
「じゃあ次は英語でも……」
「………………そうですね」
単語の翻訳から入る。暗記帳を片手に。日本に住んでいても英語は必須で、ぶっちゃけ英語が出来れば仕事には困らない。だからこそ国力の基盤にも成っているのだろう。
「………………あう……」
ルシーるルシール。
「戀と言う字を分析すれば糸し糸しと言ふ心」
ラブは愛を示す。そしてエッチの後に愛が来る。
「うーん。無明」
「………………お兄ちゃんは……お姉ちゃんを……どう思ってるの……?」
「孤独のランナウェイ」
「………………?」
さすがに通じないか。それでも思ったことは言ったつもりだけど。
「世の中が全て数式で片が付くならもうちょっと生き易くもあるんだろうけど」
非線形もこの際有用だ。あらゆる意味で数学は可能性をまだ秘めている。
「………………お兄ちゃんは……英語得意……?」
「華黒やルシールに比べれば全然」
黛と同格か。基本そっち方面では黛が唯一の理解者だ。いや別に心を許しているわけでもないけど何となく力量比較で。華黒はあんなだしね。




