毎度と言えば毎度の事で1
さて、まぁ在りしは不機嫌で。仏頂面の僕でした。
「何がいけなかったのでしょう?」
キョトンと首を傾げる華黒でありまして。しかも自覚しておいて分からないフリをするのだから数段タチが悪い。僕としてもどうしたものか。
「せめてパジャマ姿で侵入して」
朝はキジバトの鳴く頃。僕は朝一のコーヒーを飲んでいた。
「でも兄さんに新しい下着を見せたかったですし……」
そこで三点リーダを使われても可愛くないよ。フニフニと華黒は自分のパイオツを揉む。指の圧力に変形するソレは、思春期男子には辛い光景だ。フラッシュバックの様にトラウマが思念を通り過ぎる。要するに刺激的なランジェリー姿で、朝起きたらベッドに華黒が居たわけで。ソレナンテエロゲ……って奴?
「最近育ってきたので下着の選び方も大変ですよ」
そういうの良いから。深い溜め息。コーヒーの香り高さは確かに華黒によるものだろうけど、ぶっちゃければ良妻で。御飯にする? お風呂にする? ……なノリ。本人を選ぶことも無いけど、華黒ってブラコンだから。
「朝ご飯は?」
「お茶漬けと卵焼き。後は……ぬか漬けですね」
よろし。華黒お手製のお茶漬けは美味しいしね。
「色んなモノで付けてありますから」
「冗談だよね?」
「もちろん冗談です」
よかった。本当によかった。場合によっては裁判沙汰だ。これを両親に訴えて、別々の住まいを確保した方が良いか検討するレベル。
「とにかく健全に。僕と華黒は兄妹なんだから」
「兄さんのヘタレさ加減ってバグっていませんか?」
「それは統夜にも言われたね。一男子。一異性。ソレに於いて華黒を抱かないのは物理的に有り得ないって」
「燃料保存の法則」
発散はしてるんだけどね……。これを言ったら怪獣が大暴走するので心の内に溜め込む。心の闇で言えば、うちの妹はレジェンド級だ。
「好きにして良いんですよ?」
「よくもまぁ」
とは僕の正直な気持ち。責任が取れにゃーので有り得ざる選択肢ではあるモノの。それにしても統夜の言葉は強い。たしかに華黒は魅力的なのだから。卵焼きをハムリ。
「それにしても春ですね」
「華黒の頭の中が?」
「まぁ春なんですけど」
認めるのもどうよ? たしかに恋って春爛漫だけど。
「年度が変われば誕生日ですね」
「さいですね~」
お茶漬けをズズズ。
「何か欲しいプレゼントはありますか? たとえば私の身体とか」
「縁を切る鋏とか?」
「何でです!」
ウガーと華黒が吠えた。毎度のことなので気にしない。っていうか何だかなぁ。
「華黒は欲しい物ある?」
「子ども」
「聖母マリアにでも成るつもり? 聖告を受けるの?」
「兄さん。その躱し方は微妙です」
元から相手にするのも疲れるモノで。卵焼きをハムリ。絶妙の出汁加減が程よく塩辛い。
「ところで朝食はどうでしょう?」
「美味しい以外に感想はないんだけど聞き飽きてない?」
「えへへぇ」
はにかむ笑みの愛妹でした。ここだけ切り取ればとっても愛らしいんですけど……、
「ご褒美が欲しいです」
ほら。こうやって調子に乗る。
「可能な範囲でね」
「人間としての機能上、普遍的に出来る事ですよ?」
ああ、不安を煽るのがお上手で。
「ちなみに十五禁以上は却下だから」
「何故!?」
こっちの台詞だこのやろー。
「というわけで僕は健全に春を謳歌します」
「ではお花見でもどうでしょう? 近場に公園がありましたよね?」
「そうだね。それは健全だ」
ぬか漬けコリコリ。
「じゃあルシールと黛も呼びますか」
「お付き合いも長いですしね」
ルシールはともあれ、黛の距離の取り方は繊細だ。華黒を怒らせない境界線を見切って行動する。その辺は天性の物だろうか? とはいえ心の闇は結構深いんだけど。ルシールのためなら殺人も厭わないだろう。怖い。
「ではお弁当でも作りましょう。黛も呼んで」
「ルシールは?」
「兄さんの受験勉強を指導して貰いましょう」
「あー、そこは逃してくれないのね……」
「一応は(自主規制)大学を狙って貰いますので」
「A判定だよ?」
全部華黒の仕込みだけど。朝食をとり終える。馳走でござんした。
「油断や慢心はこの際の敵です」
「オーライ。コーヒーちょうだい」
「はいな。承りました」
僕は受験対策の問題集を広げる。まるで愛妻のように添い遂げる愛妹のルーチンワークに染められてる気も若干したりしなかったり。
「当初に比べれば打って響くようになりましたしね」
「華黒と違って超スペックは持ってござらん由」
パーフェクト超人もよりけりだけども。
「それではお弁当の用意でも」
桜は散るのが早いしね。楽しむなら春しか無いのも事実で。いや秋には桜紅葉もあるけども。それはそれとして英語に没頭。うーん。南無三。
「何か食べたい品物はありますか?」
「何でも美味しいけど……おにぎり」
いえ決してネタではなく。お、おにぎりが、好きなんだな。
「それで最初から分からないことだらけなんだけど」
受験勉強もまたよりけり。難しいって難しいよね。勉強に於ける英語の比重って大きすぎる気がするんだ。文系理系を問わずに必須科目だし。
「兄さん。コーヒーです」
「どうも。ありがと」
「兄さんのためですもの」
華やかに笑ってダイニングキッチンに座る。こっちの勉強を見ながらスマホを弄る。器用なヤツめ。そう思わざるを得ない。ちなみに内容は花見の提案と弁当の作成。黛の御飯も美味しいしね。ルシールは……まぁルシールで。基本的に努力してる分だけ僕より偉い。
「ま、世の中上手くも行かないよね」
「兄さんの勉強の成果は大方安心できますけど……」
高校受験で血を吐いたのがトラウマだ。高校ではジワジワと成績を上げていった。というか全部華黒の謀略だけど。操られてるパペットマシン。元より僕は僕を鎮めてはいるんだけど……そこはともあれ。




