キスの罪3
さて、
「精神的なものだよ」
医者はそう言った。
花岡先生だ。
僕と華黒の担当でもある。
検査衣を着て(というか着せられて)水月は眠っている。
あるいは鏡花か。
おそらく後者だろう。
「急性ストレス障害」
花岡先生はそう言った。
「何かプレッシャー与えた?」
「まぁ」
僕はおずおず頷いた。
「え?」
と華黒と白花ちゃん。
「何かしましたか?」
「何かしたっけか?」
だろうとは思ったけど。
「何をしたんだい?」
「キスしました」
「真白くんと千夜寺さんが……かい?」
「いえ」
否定。
「僕と華黒が」
「ふむ?」
花岡先生は、
「意味が分からない」
と語った。
「一応そっち方面の患者のデータはもう握っているんでしょう?」
「まぁね」
「ちなみに鏡花は僕に惚れてます」
「それとキスが……」
そこまで言った後、
「ああ、そういうこと」
納得してくれる花岡先生だった。
「どゆこってす?」
そりゃ華黒と白花ちゃんにはわからないだろう。
……責任のありかは華黒にあるんだけど。
「華黒が僕とキスをしたからストレスにさらされたんだよ鏡花は」
「何で?」
「じゃあ聞くけど華黒は僕と鏡花がキスをした時どう思った?」
「それはまぁ嫉妬を……」
「嫉妬できない鏡花は何を思うだろう?」
「ああ……」
納得してくれたらしい。
「?」
一人白花ちゃんだけが取り残された。
とはいえペラペラしゃべることでもない。
要するに簡単な問題だ。
僕と華黒のキスによって僕に惚れている鏡花がストレスを覚えただけ。
言ってしまえばそれだけなんだけど、
「なんだかなぁ」
鏡花にとってそれは苦しいことで、辛いことで、悲しいことなのだろう。
僕と華黒の仲に自分の入れない世界を見てしまえば。
「とりあえず」
閑話休題。
「今日はこの病院で過ごしてもらって、それから担当の病院まで移送させるよ」
「千夜寺は大丈夫でしょうか?」
「ゆっくり休憩をとれば自然に回復するよ。君や華黒くんのような特異なケースではないからね」
いやいや。
鏡花水月も十分特異なケースだと思うんですが。
「むぅ」
と不満そうなのは華黒だ。
「まるで私が悪いみたいじゃないですか」
そうではあるんだけど非難には値しない。
「とりあえず」
僕は言った。
「鏡花の前で必要以上のスキンシップは禁止だね」
「何でです!?」
「鏡花がまた倒れたら責任もてるの?」
「それは……っ!」
華黒が声を失って、
「でもそんなことになるなら千夜寺と距離を取るべきじゃないかな?」
白花ちゃんの妥当な提案。
「まぁ解決策の一つではあるけどさ」
だからって……ねぇ?
「兄さんの悪い病気です」
「だね」
華黒と花岡先生が知った風な口を叩いた。
「何が?」
「救いを求めている人を見捨てられない」
「可哀想な人を全力で助けようとする」
「だから兄さんは目が離せないんです」
うーん。
だってさあ。
それを華黒が言うのは酷じゃない?
「兄さんは私だけを救ってくれればいいんです」
「華黒の悪い病気だ」
「少なくとも真白くんほど顕著ではないけどね」
花岡先生にあらせられましては黙してください。
「鏡花や水月の前では必要以上にスキンシップをとるのは禁じ手だね」
「兄さん!」
「怒らないでよ。他に方法が無いでしょ?」
「鏡花水月に諦めてもらうのが合理的です」
「本気で言ってるの?」
「兄さんこそ本気で言ってるんですか?」
このあたりの平行線はいつものことだった。
なんだかなぁ。




