キスの罪2
金英伝は作画、ストーリーともに素晴らしいものだった。
久々の映画に興奮したまま近場の喫茶店に入る僕ら。
「ホットコーヒー」
「紅茶とケーキのセット」
「同じく」
「ダージリンを」
そんなわけでお茶の時間となった。
しばし金英伝の話で盛り上がる。
かしまし娘に僕一人。
「なんとまぁ」
と云った気持ちだ。
「お兄様はどうでした?」
「面白かったよ。批評できるほど器用ではないけどね」
ホットコーヒーを味わいながら僕。
「だよね。だよね」
僕の機嫌を取って嬉しくなるのはどうやら僕に惚れた人間の業らしい。
因果なことで。
喫茶店の内装は落ち着いたものだった。
少し前に流行った邦楽がオルゴールバージョンで流れている。
ホットコーヒーも薫り高いし、全体的に良い店と云えるだろう。
観葉植物もそこそこ置いてあるが決してプレッシャーは感じない。
センスがいいのだろう。
おひげのマスターは丁寧にグラスを磨いていた。
「それで?」
と白花ちゃん。
「なんで水月はクロちゃんが好きなの?」
「むしろ何で好きにならないんですか?」
「え?」
「え?」
まぁそうなるよね。
「華黒先輩の美貌は三千世界で一等賞ですよ?」
「可愛いのはそうだけど……」
そこは認めるのね。
そんな華黒は、
「…………」
目を閉じて紅茶を飲んでいた。
淡々と。
華黒のおもてについてあーだこーだと議論したのち、
「ですよね?」
と水月が僕に水を向ける。
何のことかと云えば、
「華黒がいかに洗練された美貌を持つか?」
という問いだ。
「まぁね」
コーヒーを一口。
華黒が、
「ふにゃっ!」
と奇声を発する。
華黒の悪い癖だ。
他の人間の評価は微塵も気にしないものの僕の評価には繊細になる。
だからこそ愛らしいというのも嘘ではないんだけど。
「…………」
ちょんちょんと華黒が人差し指で僕の肩を叩く。
「?」
僕が華黒の方を向くと、
「っ!」
「っ!?」
一瞬のうちに華黒が僕の唇を奪った。
無論、唇で。
「あーっ!」
「先輩っ!」
白花ちゃんと水月は驚いた顔をした。
そりゃそうだろう。
想い人が他者にキスをすれば誰だって不満になる。
想い人が他者にキスされれば誰だって不平を言う。
白花ちゃんは僕を。
水月は華黒を。
それぞれに好きなのだから。
華黒のキスは紅茶の味だった。
僕の唇はコーヒーの味だろう。
「ふふ」
と悪戯の成功した顔で不遜に華黒は笑う。
「可愛い妹からのキスはどうでした?」
「愛のないキスをされてもなぁ」
「愛たっぷりですよ?」
君にとってはね。
「牽制のためのキスなんて嬉しくない」
「では後で」
「ん」
そんなことを言い合っていると……、
「………………ひ……は……」
押し殺したような呼吸音が聞こえてきた。
見れば水月が顔を真っ青にしている。
苦しそうに服の胸の部分を強く握って、
「………………あ……あ……」
ぜぇぜぇと過呼吸に陥っていた。
元々白い顔色ではあるけど不自然なほど血の気が失せている。
そのまま隣の白花ちゃんによりかかる。
どうやら体勢を整えられないらしい。
「大丈夫!?」
「華黒」
「何でしょう兄さん?」
「救急車を呼んで。ここからなら僕らの病院が近いはず」
「わかりました」
とにかく苦しそうな水月を横たえて僕たちは救急車を待つ。
喫茶店のマスターが心配してくれたけど打つ手は何もない。
とにかく今は救急車を待つしかない。




