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12話 襲撃は突然に

更新遅れてすみません。

そろそろ巻いていきたい今日この頃です。



※お気に入り・評価ありがとう御座います…!

彼女が居れば良かった。

彼女さえ傍に居てくれれば、他に何も望む事なんてなかった。

本当に、それだけで良かった筈だった。



* * *



ある日の午後、昼の営業を終えた《酒場・オータムボーン》にて。

いつもの様に、私と友人・レインはカウンター越しに話に花を咲かせていました。


「でさ、こっちの文字教える代わりに僕もマドカの国の言葉を少しずつ教えて貰ってるんだけど。これがなかなか面白いんだ」

「…レイン、私はもう何処から突っ込めば良いのか分からない」

どうしてそうなった。そう呟けば、目の前の友人はそれはもう愉しそうに輝く笑顔を此方にくれます。

…毎度お決まりのパターンとは言え、彼女の破天荒っぷりに私は頭を抱えずにはいられない。

彼女――レインは、先日“日記帳”の件で会った時よりも更に男装に磨きがかかっていました。

ああ、見た目はあまり変わっていなくても態度や仕草を少し変えるだけで俄然男性らしく見えるんだな、と若干ズレた事を考えて現実逃避してしまいたくなりましたが……ひとまず事情を聞くとしましょうか。


「いやさー。こないだ此処に来た後、王宮でエリクとガチで喧嘩した…って、まあ、そっちはまだ現在進行形なんだけど」

またですか。…なんて突っ込みは彼女たちの場合、いくらしても無駄なので随分昔に止めました。

にしても、レインが最後にオータムボーンに来た日、と言う事は。

つまりあの“日記帳”のやり取りのあった丁度その日に、レインはその時にはもう呪詛が解けたであろうエリク様と、彼女が男装して王宮へ乗り込んでいる事の是非について再び口論になった、と考えるのが妥当でしょう。

…ああ、このレインとあのエリク様の事ですから、ひょっとすると口だけでは済まなかったかもしれませんが。

「………」

相変わらずだな、と思う反面、先日までの一方通行な言い合いよりはずっと良い状態なんだろう―――と、スッキリした表情のレインを見てこそりと安堵しました。

「そんでな―――」

レインはそんな私の様子に気付く事はなく、まるで冒険物語でも語る少年の様に話を続けます。

「…で、兎に角色々あってマドカと話す機会があってさ。まあ最初はお互い気まずかったんだけど、エリクやあんたのド腐れ宰相様の悪口言ってる内に仲良しになったんだ」

「それは…きっと盛大に盛り上がったんでしょうね」

ふ、と思わず笑みが漏れる。

テラスでお茶でもしながら、当人が居ようが居まいが関係なく盛り上がるレインとマドカさん。

最近はキースさんやギューンさんの定期報告で王宮の様子を逐一聞いているからか、ごく自然にその光景が想像出来ました。

…あ。ちなみに余談ですが、先日キースさん経由でマドカさん本人から「様付けはやめて欲しい」と伝言を頂いたため、彼女の呼称が「マドカさん」に変わっています。

あの日は此方の不手際できちんとお別れ出来なかったのが気がかりでしたが…彼女との距離が縮んだ様で嬉しいと思える様になるなんて数週間前の自分からすると少し不思議な感じですね、とその時キースさんに話したところ、ニヤニヤしながら彼は王宮へ引き返し――翌日、とてもご満悦な様子で『女に走るのはやめろ』と書かれたジーク様からの手紙を渡してくれました。

一体どういう報告をしたらそうなるのかと…と、話が横に逸れすぎたのでそろそろ本題に戻りましょう。


「最近、市井で専ら噂の“謎の美少年”ってレインの事だったんですね」

「いえーす!」

私の問いに、レインは親指を立てた右手を差し出して正解、と示す。

――そう、マドカさんが二度目にこの店に来たあの夜から少し経ち、街に新たな噂が広がり始めました。

《巫女様争奪戦線に新たな戦士が浮上!これまでの誰よりも急速に巫女様に接近する美少年騎士、その正体は謎に包まれており―――》

私も気になり一度王宮組の二人に尋ねていましたが、ニヤニヤするだけで結局は教えず仕舞いで。

ですが…成程。こう言う理由であれば、あの二人が秘密にしたがったのも分かる気がします。

ジーク様からの手紙の件といい、結構な緊急事態の筈なんですが皆さん完全に状況を楽しんでらっしゃる気がします。

まあ、こういう状況だからこそ気持ちに余裕がある事は良い事かもしれませんが。

「…ジーク様、荒れ狂っていなければ良いんですけど」

ポツリとそう呟けば、レインが盛大に噴き出した後、

「大丈夫、大丈夫!エリク共々、胃薬とお友達な時点でもう手遅れだからなっ!」

そう、輝かんばかりの笑顔で教えてくれました。

…レイン、その良い笑顔が却って心臓に悪いです…。


そんなこんなでお互いの近況や、他愛の無い話をまったりしながらお茶をしていると、突然。

カランカラン――と、入り口の鐘が控えめに鳴る音が店内に響きました。

「あ、お客様。申し訳御座いませんがお昼の営業はもう―――」

「魔王!」

え、と―――目の前でそう叫んだレインを思わず凝視する。

そしてゆっくりと視線を店の入り口に戻すと、そこには。

この国では珍しい白銀の髪に紅い眼、柴色の外套の下に見えるのは濃紺に染まった如何にも――なデザインの服。

そんな格好の青年は、レインの言葉を否定する事無く当然の様に言葉を返します。

「やあ、リィン君。君も此処の店主に何か用なのか?」

その表情はにこやかなのに、何処か酷く冷めた印象を受けました。だからこそ。

…ああ、彼がジーク様やマドカさんの言っていた“魔王”なのか。

私は妙に凪いだ気持ちで、彼が魔王なのだと認識したのでした。


「僕の事はどうでもいいだろう。…アンタこそ、此処に何の用なわけ?」

全身で警戒するのが感じられる程に低いレインの声が、店に響きます。

…そう、突然の来店に若干呆けてしまいましたが、入り口に立つ青年は今回私たちが関わっている一連の事件の“容疑者”の一人です。

が、店にいる以上、現時点ではあくまで“お客様”。

そして此処で変に警戒しすぎて怪しまれても不味いと思い、私は普段のペースを乱さずいつも通りに対応するべきだと判断しました。

「当店に何か御用でしょうか?そろそろ夜の営業準備に入らなければならないので、あまり長い時間は取れませんが…」

そうして、先程明らかに『君“も”此処の店主に用なのか』と、店ではなく私自身に用のあるそぶりを見せていた事は一切無視してそう尋ねると。

「ふうん、なかなか様になったもんだね」

「はあ?」

私の対応に、まるで以前の私を知っているかの様に“魔王”が感心し、そんな“魔王”の反応にレインが思わず声を上げて。

そして私は、その皮肉気な“魔王”の言い回しに、以前も似た様な声の持ち主にこの様な事を言われた事を思い出していました。

「…貴方は―――」

「あれ、もしかして覚えてるの?もう3年くらい前だし、あの時から結構様変わりもしてるのに。伊達に、城下町でも有名な酒場の女店主やってないって事か」

そうして、“魔王”が面白いものでも見たかのようにニヤリと笑う様子を見て、私は思わず息を飲む。

そんな私と“魔王”の様子を呆然と見ていたレインが、ゆっくりと口を開きました。

「なあ、“店主さん”。あんたコイツの事、知ってんの?」

“魔王”が居る手前、呼び方を変えながら――信じられないといった様子で、問いかけるレインに対して、私は素直に答えます。

「…はい」


そう、この人を嘲笑うかの様に皮肉気な表情をする青年を、私は知っている。

ただ、レインへは肯定はしたものの、十中八九その通りな予感はするものの、恐らく、と心の中だけで付け足しました。

何故なら私が知っている当時の彼は、白銀色の髪でも、紅い眼でもなかったから。

――『“魔王”となる者は、誰もがある日突然覚醒する』

――『“魔王”ってのは、何かしら国に対して不満を持った人間がそうなるんだよ』

ふいに、先日のジーク様の言葉が蘇りました。そして。

私は、今更その事実を目の当たりにする事になったのでした。



* * *



ひとまず、ずっと立ち話のままでは外から怪しまれてしまうため、カウンター席に案内する。

“魔王”と隣り合って座る事になったレインが不快そうに顔を顰めてしまいましたが、手短に済ませたかったため話を進めます。

「それで、本日は当店にどの様なご用件でいらしたのでしょうか?」

「ああ、うん。主に店主のアンタに用があるんだけど。まあ、ある意味店って言っても良いのか…」

「さっさと用件言えよ」

無駄に長い前置きに痺れを切らしたレインが噛み付く。…まあ、気持ちは分かりますが少し落ち着いてください。


「今日は、忠告しに来たんだよ」

ガタ、と一瞬何処かで音がした後、その場の空気が一気に硬直しました。


「…忠告、ですか?」

「そう、忠告。いつか誰かは気付くと思ってずっと見てたけど、思っていたより派手に動いちゃってるみたいだからね」

私の問いに、あっけらかんと答える目の前の“魔王”。

そんな“魔王”に対し、私は何も知らない体を貫きながら慎重に言葉を選んで話を続けます。

「一体、何の事でしょう?」

「巫女の呪詛の件だよ」

「――――」

まさか、と。

まさか行き成りそんな核心に触れてくるとは思いもよらず、私もレインも困惑する。

そんな私達の様子を“魔王”は軽く鼻で笑い、そして淡々と話を続ける。


「アンタ達は『“敵”は一人』と思い込んでいる節がないか?呪詛をかけた人物だけが本当に“敵”か?呪詛をかけた人物は本当に“敵”か?“敵”の思惑は本当に全員同じか?“敵”は全員が全員本当に“味方”なのか?…アンタ達は、その辺どう考えてるんだ?」

「………」

まるで謎かけの様な問いかけ。でもそれは、非常に重要なヒントでもありました。

その話が本当であれば、今回の件は恐らく―――。


「…何故、今そんな話を、貴方は」

“魔王”の真意が分からない私は、戸惑いながら彼に問いかけます。

「ああ。こんなに話したら俺、もしかしたら消されちまうかもしれないな…ひょっとするとアンタ達も」

そして“魔王”は、そんな恐ろしい事をさらりと言い放ちました。

が、目の前の“魔王”にとってそれは本当にどうでも良い事の様で、薄っすら笑いながら差し出していたレモン水を飲み干す、と。

「…あれ。これ、レモン水?へえ、酒場なのに洒落た事する様になったんだな―――何て、まあどうでもいいや。とりあえず、俺の用事は済んだから退散するよ。…だから、そんな怖い目で睨まないで切れないかな、魔道騎士サン」

ちょっと待て。暢気に吐かれた“魔王”の言葉とその視線に釣られ、私とレインは店の入り口に視線を向けました。

すると其処には、いつの間に店に入っていたのか無表情で此方を見つめる漆黒の青年が。

「…エ、リク」

「………」

そんなレインの呟きが聞こえているのかいないのか、エリク様は無表情のままカウンター席まで突き進んできます。

無表情の筈なのに物凄い圧迫感を感じるのは、恐らく彼が非常に怒っているからか――などと考えている内に、彼はレインの腕と“魔王”の襟首を掴んでいました。

「宰相殿がお呼びです」

「おお怖、もっと優しくしてくれない」

「黙れ」

おどける“魔王”に対し、返ってきたのは普段のエリク様からは考えられない程に地を這うような声。

黒ずくめな見た目もあり、どちらが魔王か分からない程の迫力が今のエリク様にはありました。

流石のレインも今の彼には抗えない様子で、終始無言で俯いています。

「それでは、ご迷惑をおかけしました」

そうしてエリク様は有無を言わせぬまま、掴んだ二人を引きずる様に店を出て行きました。


「ありゃ軟禁コースだな」

ひょこり、と。誰も居なくなった筈の店にキースさんが顔を出します。

「キースさん、」

「あ、シャロンもこれから移動な。場所はジークん実家。そろそろ色々大詰めだぞー」

え、と。

「服はあっちで用意すっから必要最低限の荷物だけで良いってさ。あ、店は暫く花屋のヘレンが隣のよしみでやってくれるから気にすんな。まあ、あっちも仕事あっから夜の方だけだけどな」

そうしてキースさんは考える余裕を与える事無く、支度をする様私をせかします。

…え、いやいや、本当、ちょっと待って下さい。

「……一体、これから何が起きるんですか?」

「ん?ああ、そりゃジークん実家着いてからだな!」

言いながら、ニカっと豪快に笑うキースさん。

…ひとまず、支度するしかなさそうです。


「キースさん、お待たせしました」

「おー。んじゃ、いざ行かん鬼畜野郎の実家!…なんてなー」

「それ本人の前で言ったら血祭りに上げられますよ」

「知ってる。実証済み」

「……そうですか…」

そうして、私は最低限必要な荷物を抱え≪酒場・オータムボーン≫を後にしたのでした――。



そんなこんなで、魔王ネタバレ自重の巻でした。

ふわふわしている部分は次くらいで回収出来たら…いいな、と…!

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