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余命宣告された私を引き取る姉が不憫でしたが、精霊の夫と幸せそうです  作者: 吉沢月見


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実家へ戻る6

 翌朝見たキミヒコさんは、昨日と雰囲気がちょっと違う。

「どこが?」

 ときょとん。


「目が離れてる気がする」

 私は言った。


「まずいまずい。今日は曇っているからな」

 と戻した。


「精霊さんて、もっと最近の漫画の妖狐とか吸血鬼みたいにイケメンなんだと思ってた」

 私は言った。


「これでも村一番のいい男の身なりを真似しているんだが」

 キミヒコさんが背を丸める。


「昔の人だからか、納得」

 背格好が時代劇に出てくる農民ぽい。目が小さく鼻も低い。元々がその姿ではないから擬態に近いのだろうか。気を抜くと緩むし、シャキっと直すこともできるようだ。


「和食でよかった? 十子、朝はよく食べるんだ。昼はおにぎりが多い」

 キミヒコさんがテーブルに朝食を運んでくれる。


「私、今日病院なの。検査あると食べられないのかな」

 納豆に目玉焼き、大根おろしにしらすまで。旅館のようだ。おいしそう。


「今日は話だけじゃない? 検査するなら先に言うでしょ?」

 シャワーを浴びて濡れた髪をタオルで覆った姉が対面に座る。


「そうかな。じゃあ食べよう」

「いただきます」

 姉が手を合わせる。


「いただきます。昨日も思ったけどキミヒコさんは食べないの?」

 私は尋ねた。


「はい。私の食事は…」

 と窓外の、雲に隠れた太陽を指さした。


「光合成?」

 そんなことってあるのだろうか。


「それから、十子」

「やめてよ、小春の前で」

 その意味を知るのはすぐだった。


 姉は半熟の目玉焼きをご飯に乗せて、それに大根おろしと納豆を乗せてぐちゃぐちゃにし、最初からそうやって作ってもらえば泡うのはお茶碗だけですむのではないかと私は考えてしまう。

 効率第一主義。だから病気になったとき、いろいろと不便なことで憤って、自分の体が通常通りに動かないだけで、たぶん普通の人よりもストレス多めで更に病んだ。


 昨日の夜よりもご飯を少なめによそってくれてる。だから完食できた。

「こういうさらさらしたもののほうが食べられるのかな。よかったでござる」

 私のことなのにお茶碗を見てキミヒコさんがほっとする。


「うん。大根おろしおいしかった。ごちそうさま」

 上げ膳据え膳では申し訳ないので手伝おうとしたら、

「小春、お風呂こっち」

 と姉が手招きする。手を引かれなくても、壁を伝わなくても歩けた。これが実家の威力なのだろうか。息苦しくない。昨日までとは打って変わって体が軽い。


 そりゃそうだよな。両親に祖父母まで頑張れと応援してくれているはず。


 お風呂はすっかり変わっていた。

「きれいになってる」

 眩しくて目が眩むほどだ。


「リフォームしたの。小さいとき小春、なんでうちにはシャワーがないのってお父さんを困らせてたもんね」

 姉が言った。


「そうだっけ?」

「シャワーでいいの? 体冷えない? 小春の荷物からシャンプーとか持って来ようか?」

「あるのでいい。これお姉ちゃんの? 使っていい?」

「もちろん。タオルここね。そこのボタン押すとキッチンでわかるから具合が悪くなったら呼んでよ」

「うん」

 姉になら裸くらい見られていてもいいのだが、そちらが遠慮して脱衣所を出て行った。


 ボディーソープではなく石鹸だった。緑色で自然の匂いがした。泡立ちは悪い。よもやキミヒコさんが作っているのだろうか。

 椅子に座ってしまえば楽なのだが、そうしたら立ち上がれる気がしない。私の体よ、もう少し言うこと聞いて。腕が上がらないからなんとなく髪を濡らして、泡立てたシャンプーをたらりと塗るように髪にまとわせまたシャワーで流す。おしゃれ以前にシャワーは便利だ。体を動かさなくても洗える。

 湯船も大きそう。入ることはないのだろう。


 元気なとき、痩せたかった。痩せるサプリを飲んでも痩せなかった。それなのに、病気になっただけでガリガリ。あばらが浮いて、小さな胸が更に萎んだ。大ぶりなイチゴみたいなおっぱいだなと自分の視点から思う。昔から左右非対称なのを気にしていたが、もうどうでもいい。


 夢見た大恋愛なんてしないまま死ぬのだ。肉が削げ落ちただけなので皮膚がたるみ、お腹は妙に柔らかかった。鏡に映る貧相な体にがっくりし、それでも体はさっぱり。


 ワイヤーなしのフロントホック。ホックなしのスポーツブラでは逆に脱ぎ着できないから、好みのブラを手に入れるのも億劫。これも緩くなってしまったから病院の帰りにお姉ちゃんに買ってもらおう。きっとこっちのおしゃれでない店ならたくさんあるだろう。これもおばあさん用なのか、おばあちゃんが着ていた頃の肌着の生地に近い。



 病院までは1時間。ずっと下りの田舎道を姉は私への振動を気にして更に安全運転。原付にまで抜かされる。すごい速い自転車にまで。

「自転車の大会があってね、練習がてらに人が来るようになったわ。車にとっちゃ邪魔だけど」

 姉の車は荷が運べるように大きいワゴン。後部座席に座っているつもりなのにいつの間にか横になっていて、子どものときもこうして父の車から電線を見ていたことを思い出した。にょろにょろ、くねくね。蛇と言うよりは万華鏡。


 人生をどう生きたら病にならなかったのだろう。高校生のときに友達の男を取らなければよかった。いや、あっちが勝手に乗り換えただけ。20代半ば、熱心に婚活をする会社の先輩を心の中で笑っていた。今となっては私だってもう売れ残り。しかも闘病中。


 もっと御朱印をもらえばよかったのだろうか。どう生きても、私が私である限り病気にはなったのだろう。病気の多くは遺伝化ストレス。

 占い師さんも良いことしか言われなかった。なにかのせいにしたくてこじ付けにしても、病気が消えるわけじゃない。


 残りの人生はこうして動く車の中から電線を見上げていたいな。ほら、幾重にも重なって模様みたい。そして夜は姉が作ったあのベッドで眠ろう。

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