第35話 神秘の美瑩
「ウー・メイイン!」
ウー・ジンスが名を呼んだ。
その瞬間、周囲の視線が一斉にこちらへ向けられる。
年若いとはいえ、美瑩はその優雅さで人目を引く――いや、むしろ“変わっている”と見られているせいで、余計に注目されているのかもしれない。
皆の視線を浴びながら、美瑩は俺へ向かって眩しい笑顔を見せた。
「私の番みたいね」
「うん。みんなに見せてやれよ」
「もちろん。――あなたもちゃんと見ててね?」
「いつだって見てるよ」
俺の言葉に、美瑩の顔がぱっと花開くように輝いた。
そのまま、彼女は階段へ向かって歩いていく。
落ち着いた、自信に満ちた足取りだった。
俺はその背中を見つめながら、自然と笑みを浮かべた。
半年前、美瑩の数値は三三〇〇。
俺ほどではないにせよ、彼女も確実に強くなっているはずだ。
周囲からひそひそと声が上がる。
「また美瑩の番か……」
「強いけど、ちょっと変わってるよな」
「いや、普通にかわいいだろ」
「不思議な美人って感じだよな」
俺は苦笑した。
――本当に、人の目を惹く奴だ。
だが、彼女が“変わっている”と思われる理由は分かっている。
未来を言い当てるような言動。
そして、それが必ず当たること。
昔、あるやつが「訓練中に失敗する」と言われて、本当にその通りになったこともあった。
そんなことが続けば、噂にもなる。
――呪われている、なんて。
何年か前、俺は彼女に聞いたことがある。
どうして気にしないのか、と。
そのとき、美瑩は笑って言った。
「私にとって大事なのは、あなたの意見だけよ」
その言葉は、今でも胸に残っている。
俺は雑音から意識を切り離し、彼女へ視線を向けた。
美瑩はすでに試験石の前に立っている。
背中しか見えない。
黒く長い髪が、風にふわりと揺れた。
その瞬間――
別の“誰か”が、そこに重なった気がした。
同じ黒髪。
だが、まるで別人のような存在感。
「……え?」
瞬きを繰り返す。
もう一度見ると、そこにはいつもの美瑩しかいなかった。
……気のせいか。
俺は軽く頬を叩き、意識を戻す。
美瑩は静かに構えた。
俺たちが習っていない、独特の姿勢。
そして――拳ではなく、掌を打ち込む。
パァンッ!
乾いた音が広場に響く。
試験石の奥に赤い光が集まり、数値を形作る。
「三九〇〇!」
ウー・ジンスの声が響いた。
周囲が一気にざわつく。
「マジかよ!?」
「また三千台後半!?」
「俺より年下なのに……」
「やっぱあの二人、おかしいだろ」
そんな声が飛び交う中、美瑩は何事もなかったかのように階段を降りてきた。
そして、俺の前でにこっと笑う。
「どう? ジエン。なかなかでしょ?」
「……すごいよ。本当に」
正直に言うと、彼女は満足そうに笑った。
「でしょ?」
俺は少し身をかがめ、彼女の耳元で囁く。
「……手加減してただろ?」
美瑩も同じように、小さく笑った。
「さあ? 本当に大事な場面で手を抜くなんて、そんなことするわけないじゃない」
――つまり、これは本気じゃないってことか。
「……なんか、みんな俺たちの噂してるな」
「させておけばいいのよ」
「“いつも一緒にいる”ってさ」
「へぇ? こういうこと?」
するりと、美瑩が距離を詰めてくる。
腰と太腿が触れるほどの距離。
近すぎて、自然と互いの身体を支える形になる。
「……たぶん、これくらい」
「じゃあ、このままにしようかしら」
いたずらっぽく笑いながら、彼女は俺を見上げる。
「噂、本当になるわよ?」
「いや……この距離で修行は無理だろ」
「だいじょーぶ。なんとかなるって」




