表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巫女塚伝説  作者: 由紀乃
6/12

2


声が傍から聞こえる。

恐る恐るそちらの方を見ると烏が一匹、地蔵の上に止まっている。


『第一幕、鬼ごっこ!鬼は狼!鬼は狼である!二刻(にこく)、逃げ切れば遊戯はしまいで

ある!!』


「ひい!」


恐怖で震え上がる。

だって、烏が人の言葉を話しているのだ。


『始まりの鐘が鳴る!さあさあ、逃げよ!』


逃げよ!逃げよ!と連呼されて、私は反射的に走り出す。

ハアハアと息を荒げて、森の中を駆けていく。

森の中で何処にいるかもわからない。でも、逃げないといけないと本能が知らせる。

崖のある場所に辿り着いて、足を止めて呼吸を整える。



「あれぇ、()()()お姉ちゃんだけ?」


子ども声がする。



ばっと上を見ると数匹の狼とともに少年が一人、座っていた。

黄色味のかかった茶髪に金色に輝く瞳。どこかの民族衣装を着ており、頭には布を巻いている。


「ははっ。お姉ちゃん、可愛いね。可愛いのに可哀そうだ」


にこにこと楽しそうに笑うその姿に悪寒が走る。

だって、先程まで誰もいなかった。それに狼を従えている。

もうそれは人間ではないと確信してしまった。


「うーん。あの五月蠅い人間たちとは違うからちょっと手加減しようかなぁ」


五月蠅い人間たちと少年は言った。もしかして。


「ね、ねえ!もしかして、五人組の男女のことを言っているの!?」


「うん?うん、そうだよー。ぎゃあぎゃあと五月蠅かったなぁ」


でも、悲鳴を聞いて面白かったよと言う。


「さてと、始めないと怒られるし。お前たち、今回の遊び相手はこのお姉ちゃんだよ」


たっぷり、遊んでおいてと言ったと言った時だった。

カーンカーンと鐘の音が響き渡る。


「ほら、逃げないと食べられちゃうよ?」


「!!」


ばっとそこから離れる。

ハアハアと息を荒げながら、暗闇が広がる森の中を走り抜ける。

逃げなきゃと本能が知らせる中、ウオーンと遠吠えが聞こえてくる。

ダッダッと何からこちらに向かってくる音。


「だ、だれか!!」


しかし、誰も助けてくれない。

ズボンが枝によってボロボロになって、腕にも切り傷が出来ているのだが気にする暇がない。

恐怖のあまり目に涙が滲むが、拭うこともできない。


「あっ」


小石に躓いて転んでしまった。

しかし、ずっとこのままではいけない。狼たちが追い付いてしまう。


「お姉ちゃん。大丈夫?」


「!?」


ばっと前を向けると心配そうにこちらを見る少年がいた。


「あーあー、お怪我して痛そう」


しゃがんで私の頬を撫でてくる。


「ねえ、お姉ちゃん。僕のお願いを聞いてくれたら、遊びを終わらせてあげるよ?」


「!」


甘い誘惑だった。


「そうだなー。お姉ちゃんが()()のモノになってくれれば終わらせてあげるよ?」


どう?と首を傾げて、訊いてくる。

僕らのモノ?つまり、この人間ではないモノの玩具にされる??

そんなの。


「死んでもいや!!!」


「わっ」

パシッと彼の手を振り払い、また立ち上がって走り出す。




「……………ふふっ。やっぱり、お姉ちゃんだぁ。いいなあ、可愛いなあ」




タベチャイタイナァ。

涙の後ろ姿を見ながら、うっとりと目を潤ませていた。





ハアハア。どのぐらい走っただろうか。

もう、村の方向でさえ分からない。

先程までの狼の鳴き声は聞こえてこない。

少し呼吸を整えるために足を止めて、樹木にもたれかかる。

この訳の分からない遊びは二刻で終わる。ということは、二時間逃げ切ればいいのだが時間が分からない。それに、狼たちは臭いを追ってこちらに向かってくる。

数匹に対して私一人。人間対動物でましてや、身体能力も高いわけでもないから勝ち目がない。

何かないか。何か!!

ぐるぐると思考を巡らす。

そんな中で浮かび上がってきたのは覚えのない記憶だ。



『狼って水が苦手なんだ。ここの山で生きてきたのは特にそうだよ。そういえば、この村には大きな湖があるんだよ?』



知っていた?と青年の声が脳裏に響き渡る。

誰?全く知らない声。でも、湖?確か、ここを調べているときに!!

ばっと周囲を見回す。暗闇が広がる。

湖の方向が全く分からないはずなのにふいに足が動き出す。

もう、勘であろうか?一か八かに賭けている。

また、狼の遠吠えが聞こえてくる。それとともに足音がまた近づいてきている。

急げ急げ!!

必死に足を動かす。



走り抜けた先に広がったのは湖だ。

ここだ。

ハアハアと息を荒げながら、ここからどうするか考えていた。


「やっと追いついた」


「!」


バッと後ろを見るとそこには少年と狼たちがいた。


「お姉ちゃんの匂いがあちこちにあって見つけるのに苦労しちゃった」


でも、もう逃げ場がないよ?どうする?

じりじりとこちらに歩いてくる少年に恐怖を感じながら、後退りをする。

もうここまで来て、頭が回っていない。


「あっ」


ぐらりと後ろに倒れる。

そう、後ろが湖があることに気が回っていなかったのだ。

バシャンとみずしぶきとともに体が沈んでいく。

バタバタとなんとか泳ごうとするが上手く体がいうことを聞かない。

ああ、もうだめ……………。

かはっと息ができない。くるしい。

いしきが……………。

どんどんと視界が暗闇に沈み込んでいく中であの烏の声が聞こえる。


『二刻!二刻!遊戯は終いとなる!!』


その声を聞いて私は意識を失った。





「あーあー、食べ損ねちゃった。まあいっか。また遊んでね?おねえちゃん?」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ