第三幕 愚者の行い
「こらっ。すみません」
「いいえ、構いません。データは保存してますし」
「本当にすみません。皆さんにお茶を用意したのですが……………」
目を泳がせてしまう。
だって、私以外誰もいないのだから。
「大変ですね。お疲れ様です」
「お気遣いありがとうございます」
労わる様に言われてしまった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
首を傾げる少年に大丈夫だよと返答するとにこっと笑ってぎゅっと抱き着いてくる。
「こら、神威。すみません。この子は小井木神威と言いまして、私のいとこになるのですがうちで預かっているんです」
「そうなんですね」
「しかし、この子は人見知りで珍しいですね」
「へ、へえ」
「うん。お姉ちゃんといると落ち着くの!」
そんなこと言われたら少し荒んでいた心が安らいだ。
それからというもの一休みと言う形で二人と話をしていた。
村の事や伝説に関しても聞いてみると村人達は信じているし恐れているというなどの話をしていると夕方となり、今日の作業は一旦ここでやめることにした。
機材や資料を片し、旅館へと帰る。
二人も夜道は危ないからと言うことで着いてきてくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
「お姉ちゃん、またね!」
二人に手を振って宿に入ると女将が待っていた。
「あら、お帰りなさいませ。お一人ですか?」
「え、はい」
「そうなんですね。他の方々がまだ帰ってきていないのでつい」
あとでお食事をお持ちしますねと言って去っていく。
まだサボって何処かにいるのかと呆れつつ、自分の部屋に戻った。
その晩、涙以外のゼミ生たちは外を徘徊していた。
「マジで何もねぇ!ウケる!」
「コンビニもなーい」
「つか、先生も神田君もどこに行ったの?」
ゼミ生たちは店で買ったビールを飲みながら、ぶらぶらと田んぼ道を歩いていた。
地味な作業はつまらなく小野寺に押し付けてきた。
いつものことだ。
面倒なことはあいつに押し付ければ何とかなるし、怒られるのはあいつだ。
そんな中での今回の旅行だ。
つまらなくてふと中央に建っている祠に目をやる。
夜だが、スマホのライトに照らされた祠の周りには杭で四方をしめ縄で囲われていて、まるで結界のようだ。しかも、何年もたっているのに祠は綺麗に手入れされている。
そういえば、伝説通りならこれを壊したら塚の妖達も出て来ると言っていたな。
「……………なあ、これ。壊してバケモンとか出てきて動画撮ったらバズるんじゃね?」
「お、いいね!」
「どうせ、迷信しょ!」
アルコールによって脳への正確な判断が出来なくなり、集団心理も働いたことによって全員がやってはいけないことに手を出そうとしている。止める者はだれ一人としていない。
一人が動画を録画し、他がしめ縄をくぐり抜けて祠の扉を開けた。
「んあ?なんだこれ?」
お札だと思われていた中には木彫りの人形が置かれていた。
「えー、なにこれ。きもっ」
白装束のような衣を纏った人形を地面に落とし、ニヤッと笑った男は録画しているカメラを見ながらこう言った。
「じゃあ、今から壊しまーす!」
ぼきりと靴によってあっけなく壊れた木彫りの人形。
しかし、何も起こることなく全員が何だと白ける中で冷たい風が吹く。
「さむっ!早く宿に帰ろうぜ」
「そうだな」
「はあ、つまんなぁ」
そう言って全員が離れるが彼らは気づいているだろうか。
足元が白い靄のようなものが漂っていることに。
『さあさあ、今宵から愉しい遊戯の始まり始まり』
満月の夜が広がる中、木にとまっていた烏がしゃがれた男の声で話し出す。
『■百年のトキがタッタ今、生贄が揃った。皆々様、どうかご覧ください』
カアカアと鳴く烏。そして、山の奥から獣の声が響き渡るがそれを誰もが気付かない。




