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バレンタイン特別企画⑦〜イリアス〜



馬車にゴトゴトと揺られ、目的地に段々と近づくにつれ、心臓がドキドキと高鳴っていく。

私は膝のうえの青いリボンに包まれた箱をぎゅっと握った。

無事渡せるかしら。

婚約者になって以来、今日初めてイリアスに直接自分からチョコを手渡す。

初めてのことで緊張するし、また別の意味でも心臓が煩く高鳴っていくのがわかる。

ここ半年イリアスを見ると、自分でもおかしいと思うくらい、途端に心臓が煩くなるのだ。

最初は病気かと思ったけれど、イリアスから今まで見たことがない優しい眼差しを向けられていることに気付くと、鼓動は落ち着き、かわりにじんわりと温かい何かが心の奥から染み出してくる。

この正体は何なのかずっとわからなかったけれど、今日(ショコラブデー)という日のために用意したチョコクッキー、箱に青いリボンをかけているとき、なんとなく、その正体がわかった気がした。


ガタリと馬車が止まり、扉が開かれる。

どうやら目的地に到着したようだ。

外はもうすっかり暗くなってしまっている。


「流石にもう帰ってるわよね」


少し心配しながら扉を叩き、出てきた執事に訪いを告げれば、知らせを聞いたイリアスがすぐに来てくれた。

私はほっとする。良かった。もう私服姿だし、生徒会の仕事、そんなに遅くならなかったのね。

今まで学園が終わったあと、訪ねるなんてしたことがなかった私に、イリアスが少し驚いた顔で出迎える。


「どうしたんだ?」


「うん、ちょっと、イリアスに用事があって……」


「とりあえず中に――」


「いいの、いいの!」


中に招きいれようとするイリアスに慌てて、首を振る。事前に連絡もなしに、こんな時間に上がるわけにはいかない。


「渡したいものがあっただけだから」


「渡したいもの?」


「うん……。これ……」


後ろに隠し持っていた青いリボンの小さな箱を胸の前にやると、ゆっくりとイリアスの前に差し出す。


「これは――」


「今日、ショコラブデーでしょ。チョコを渡したくて……」


イリアスの目が驚きで見開かれる。


「そのためにわざわざ来たのか? 今回もきっと今までと同じように送られてくるのだと思っていた……」


これまでショコラブデーの日に、イリアスと私の月一回の交流の日が重なったことはなかった。そのため、私は毎年王都のチョコレート店でチョコを買って、ペルトサーク家に使用人を通して送っていた。

憎からず思っている仲ならば、直接渡しに行くのが当たり前なのだろう。

けれど、私はいづれ自分が断罪される悪女だと思っていたし、当然イリアスも私のことが嫌いなんだと思いこんでいた。わざわざチョコを渡しにいって、厚かましい女だとますます嫌われるようなことをしたくなかった。かといって、全くあげないというのも婚約者としての義理に背いてる気がして、王都の高級チョコを無難に送るという手をとっていた。


「……今年は、直接手で渡したくて。これ、私の手作りなの」


悪女の手作りなんてほしくないだろうと思って、今まで送ることはなかったけれど。

でも、今のイリアスなら――。


それに、私自身手作りを贈りたかった。買ったものは嫌だった。

心を込めて作ったものをイリアスにあげたかったの。

私の想いが通じたのかわからなかったけれど、驚きに見張っていたイリアスの目が、ふっと柔らかく細められた。

途端、私の心臓がトクンと大きく波打つ。


「ありがとう。大切に頂く」


「あ、あ、うん!」


ぱっと下を向いて、挙動不審になる私。

あー、もう私! なんで普通に振る舞えないのかしら。きっとおかしく思われてるわ。


「じゃあ、私、チョコも渡せたし行くね!」


ごまかすように立ち去ろうとする私を、イリアスが引き止めた。


「待て。送ってく。ちょっと待ってろ」


返事を返す前に屋敷の中に入っていってしまうイリアス。時間をおかずにまたすぐに戻ってきた。


「おまたせ。行こう」


イリアスは綺麗な青色のロングコートを羽織っていた。見るからに一点物だとわかる洗練されたデザイン。

わあ。イリアスだから着こなせる色味ね。

イリアスの青い瞳によく似合っている。

それにしても、ロングコートって長身の人が着ると、本当格好いいわね。

惚れ惚れしている間にイリアスが馬車の前に到着して私を待っていることに気付いて、私は慌てて足を動かした。

そんな私を見て、イリアスがくすりと笑ったので、私の顔はまた真っ赤になってしまった。




「着いたな」


馬車に揺られている間に、いつの間にか家に着いてしまった。

馬車の扉が開けば、目の前はもう家の扉の前。


「どうした?」


降りない私にイリアスが声をかけてくる。

馬車に乗っている間中、無言だった車内。

二人きりの緊張で会話が見つからなかった私。

イリアスはいつも変わらず余裕そうにしてたけど――。

このぎこちない感じのまま――私だけかもだけど――別れるなんて嫌。

それに、もう少し一緒にいたい。

屋敷のなかに誘っても、この時間だし、来訪の連絡もいれていないから、イリアスはきっと断るだろう。――なら。


「ねえ、良かったら庭を散歩しない!?」


我ながら、突拍子もない誘いだと思ったけれど、イリアスは特に渋ることもなく頷いてくれた。


「別に構わないけど、その格好で大丈夫か。何か羽織るものがあったほうがいいんじゃないか」


孤児院から直接来たため、私はまだ制服姿だった。

夜は流石に冷え込んで寒いけれど、イリアスを待たせなくない。それにお父様かお兄様に会ったらイリアスの存在を知らせることになる。当然流れで屋敷に招くだろう。そうなったら、礼儀正しいイリアスのことだから屋敷に上がらずそのまま帰ってしまうだろう。


「大丈夫。そんなに寒くないわ」


私は首を振った。


「そうか、じゃあ少しだけ」


「うん」


私たちは庭を散歩した。

すっかり夜の帳がおり、辺りは暗かった。

空には星が瞬いている。

しんと静まりかえった庭。時々、自分たちが踏みしめる枯れ葉の音が聞こえるだけ。

会話をしたいと思って誘ったけれど、並んで歩くだけの静けさが何故か心地よかった。

このままずっとこうしていたい。

そう思いながら、他愛ない話を少しだけして。

そうしてちょっと経った頃。


「――くしゅんッ」


流石に寒くて、くしゃみが出てしまった。


「ほら、だから言ったじゃないか」


イリアスが少しだけ呆れたように、私を見てくる。


「だって――」


あなたといたかったのよ。

仕方ないじゃない。

ちょっといじけて、下を向く。

私の気持ちなんて、ちっとも知らないくせに。


「ほら」


「え?」


顔をあげると、イリアスがコートを広げて立っていた。


「寒いんだろ。あっためてやるから。来い」


一瞬何が起きているのか信じられなくて、ぽかんとしてしまう。けれど、状況をすぐに悟り――。

ええ!? もしかしてあそこに飛び込むの?

本当に?! 恥ずかしすぎる!!

私が羞恥で躊躇している間にも、イリアスは腕を広げて待っていてくれて――。


「ッ〜〜〜!」


私はありったけの勇気を振り絞ると、イリアスのコートの中に飛び込んだ。

イリアスが私をぎゅっと抱きしめる。

私もイリアスの背中に手を回した。コートに包まれて、彼以外は何も感じなくなる。

暖かな彼の体温。鼻腔を浸す彼の香り。

ドクドクと激しく脈打つ心音だけは、彼か私のものかわからなかった。

私はぎゅっと目を瞑った。同時に彼の背中に回した手に力を込める。

今なら言えるかもしれない。

頭の先からつま先まで、彼の世界に浸った今なら。


「……好き。…………大好き」


勇気を振り絞って言ったのに、しばらくイリアスからは返事がなかった。

聞こえなかったのかしら。声が小さすぎた?

もう一度言おうか迷っていると、頭上から声が聞こえた。


「……知ってる」


「…………。ええっ?!」


今まで奥底にあった恋心を一世一代のつもりで明かしたつもりだったのに、知ってたですって!? 自覚したのはつい最近なのに、なんでイリアスが知ってるのよ!


「いつからっ?!」


イリアスの胸に埋もっていた顔を勢いよく、ばっと上にあげる。

すると、サファイアのような彼の瞳が目に飛び込んできた。イリアスの秀麗な顔が、すぐ眼の前にあった。


「ここ半年のお前の挙動不審な行動を見てたら、気付かないほうがおかしいだろう」


ええ?! ってことは、ここ半年の私の行動の理由を、本人はわかってなかったのに、イリアスにはわかってたってこと!?

じゃあ、ずっとあたふたしてた私を見る度に、私の本心がだだ漏れだったってことじゃない!

恥ずかしっ! 恥ずかしすぎる!

私は羞恥のあまり、イリアスの胸に再び顔を埋めた。

混乱して何も考えられずに少し経ったあと、頭上からぽつりと声が聞こえた。


「俺もお前が好きだ」


「え?」


再び顔を上に向ける私。

真上には、綺麗な光を帯びた青い瞳。


「お前が好きだ」


頭上に輝く星よりも、何十倍、いや何千倍も私を魅了する青い光。


「……イリアス」


先程の混乱は収まり、私の中が再び彼だけになる。

イリアスの顔が近づいてきたので、私はそっと目を閉じた。

彼の柔らかい温もりが唇に触れた。そこから幸せという温もりが全身に伝わって、体の奥が喜びに震えた。

そっと離れる唇。

お互いの顔をじっと見つめ合ったあと、私たちは微笑みあった。

イリアスにも同じように、私の瞳が星よりも美しく見えるといいなと願いながら。



今朝はあれほど、意気込んでいたけれど。

愛の前では、勝ち負けなんてものは初めから存在しなかったみたい。

いえ、もしあったとしても、私は一生勝てる気がしないわ。

唇、いえ全身に伝わってくるこの温もりから、私の戦意は木っ端微塵に砕かれてしまったから。

一生この愛に浸っていたいと願ってしまったから。


再び降りてくる温もりに、私はそっと目を閉じたのだった。





ずっと受け身だったカレンですが、イリアスには自分から飛びついていきました(^^) 


イリアスがトリということで『星空の下』&『好きなひとのコートの中』という一番ロマンチックなシチュエーションとなりました。


晴れて想いが通じ合ったので、これからは今日のように度々イチャイチャするのではないでしょうか。


ちなみにカレンが真剣な意味で「好き」と言った相手はイリアスが初めてです。(フェリクスにも言ってますが、あれは流れ的にそう言わざるを得なかったので「好き」と言ってますが、そんな深い意味はないです)


ほかの六人もいづれ、結婚するまでには(学園を卒業するまでには)、カレンからの「好き」が聞けると思います。

その日はきっと、ひとりパーティーを開くのではないでしょうか(エーリックはもちろんハーロルトと)

ラインハルトは大人なので、高級ワインを開けて、好きな本をソファで読みそう。そして、「参ったな。集中できない」とひとり赤面してそう。

レコは布団の中で、思い出してはいつまでも寝付けなさそう。

バルタザールは幸せな余韻に浸りながら、眠るのではないでしょうか。




最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。

少しでも皆様のお心にトキメキをお届けできていたら嬉しいです(^^)


数ヶ月ぶりの執筆でしたが、楽しく書くことができました。

この番外編を書くきっかけは、アルファポリス様のほうで、「続きを書いてほしい」という一通の要望を頂いたからでした。続きを書くのは難しいですが、その要望が大変嬉しかったので、ならば番外編にと、今回の話を書かせて頂きました。

彼らのやり取りで、彼らがここ半年どのように過ごしていたか、少しでも感じ取って頂けたら、幸いです。



さて、新作の話になりますが、そろそろ書きたいなと思ってます。

私、一度筆を置くと、その後いっこうに筆をとらなくなってしまう人間のようで、新作も最初ちょろっと書いて、四ヶ月以上も放置してしまいました。(駄目人間とは私のことを言います。(^_^;))

これを機に、また頑張って書こうかなと思います。

3月か4月には頑張ってアップしたいと思います。今度は一転シリアスもので、身分差、年の差(といっても6、7歳差)の恋愛ロマンスものを予定してます。


それでは、ありがとうございました!!


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