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番外編


 ある麗らかな春の日のこと。


 リンゴーン。リンゴーン。リンゴーン。


 祝福の鐘が鳴り響き、 空には七色の花火が上がった。

 花びらが舞い散る中、私は満開の笑みを浮かべる。そう、あの時の私の心はまさに幸せ一色だった。

 大好きなお父様とお兄様、大切な友人に見守られ、愛する男性と結婚する。女の子だったら、一度は夢見るシチュエーション。

 まあ、私の場合は相手が7人いるという特殊さだったけど。

 まあ、とにかく幸せだった。

 私が幸せに浸っている間、対外的ににこやかな笑みを送っている男達が水面下でバチバチと火花を散らしていることも知らず――


 そう、その後の初夜七日間の実態を知っていたなら、その時の私は間違いなく笑ってなんかいられなかっただろう。

 一夜明けるごとにベットの中で私がぐったりするのに比例して、男性陣の朝日の中で輝く肌艶の良いこと。


「え!? 私と同じでほとんど寝てませんよね!?」と何度心で問いかけたことか。

 7日目の朝を迎えた時には漫画だったら間違いなく灰になってサラサラサラと崩れていく心境がしたわ。本当に。

 でも、そんな疲れ切った私とやっぱり反比例して、レコが真っ白いシーツの中爽やかな笑みで「おはようございます。カレンさん」って照れくさそうに言うもんだから、恨み言のひとつも言うに言えなかったわね。

 ちなみに初夜は勿論一人づつ迎えたんだけど、その順番は男たちの熾烈な戦い(内容は極秘)によって決まったらしい。

 レコが最後ということは、その熾烈な戦いでビリになっちゃったのね。でもさりありなん。

 あんな気合いも充分な出来すぎな個性的な男たちを相手にしたら、一番気弱なレコは押し負けちゃうわね。

 そんな悔しさを微塵も見せず、ただただ嬉しいという表情のレコを見ていたら、私も嬉しくなってぐったりした中微笑んだ。

 それはイリアスやユーリウス、エーリック、フェリクス、ラインハルト、バルタザールと朝を迎えた時と同じ光景だった。

 

 好きなひとと見つめ合って、微笑み合う。ああ、これが幸せなんだなあってその時はじんわり思った…。けど……。だけど……!!

 私の体力がどんどん削られていくにつれ、そうも言えなくなってきた。

 こんな昼夜逆転の生活を続けていたら、私の体が保たないわ!! 体力が限界に達したのち、その後は夜の生活をするに至っての制限を設けさせていただきました。こっちはあなたたちと違って、体力が無尽蔵にあるわけじゃないのよ。全く。

 そんな忘れられない初夜七日間を頑張ったご褒美かどうかはわからないけれど、その時に妊娠したことが発覚。


 それから早十ヶ月。

 私は黒髪に紫の瞳の可愛い女の子の赤ん坊を産んだ。

 その時の男性陣の喜びようとはしゃぎっぷりは記憶に新しい。

 それから更に日が経ち――


「ほーら、パパだよー」


「あぶぶー」


「違う。パパはこっちだよー」


「あぶー」


「違う違う。パパは俺。ほら、イリゼ。エーリックパパだよー。ほら呼んでごらんー」


「あぶー?」


 ベビーベットを取り囲んで、ユーリウス、フェリクス、エーリックが盛んに赤ん坊に話しかけている。この光景がもはや日によって男性陣の姿が変わるだけの当たり前の日常の一コマになっている。

 私が産んだ赤ん坊の名前はイリゼ。

 初夜七日間で授かったのは確かでも、髪と瞳と顔立ちが私にそっくりなため、一体誰の子か全くわからない。そのため、皆自分の子だと主張して曲げない。


 そのために熾烈な戦い(第二弾)が巻き起きおこったらしいのだけど、決着が付かず……。

 最終的には一番最初にパパと呼ばれた人間がパパになれるという結論に至ったらしい。

 それからは暇があれば、イリゼの周りでパパ呼びが連呼されているというわけ。

 

 私はクスリと笑みを浮かべる。


 意外だったのはユーリウスとフェリクスはそのクールな見た目に反して、イリゼを見る目がすごく甘いのよね。

 ほら今だって相好を崩して、笑いかけてるわ。

 あら、イリアスがやってきてイリゼを三人から掻っ攫うように抱き上げたわ。


「ほら、パパだぞ」


 笑いかける青い瞳がすごく優しくて、こっちまでうっとりしちゃう。

 あ、ユーリウスがイリアスに「返せ」と突っかかり始めた。


「お前のものじゃない」


 いがみ合いを始めるふたり。全く、相変わらずなんだから。

 

 今私達がいる居間みたいな大きな部屋は私の居住スペース兼みんなの共有スペース。日の光がたっぷり入って、中庭に面した大きなガラス窓からは外への出入りもできる。

 その中庭が中心となってそれぞれ男性陣の住まう建物につながっている。つまり中庭を通って、こっちに来れるというわけ。

 まあイリアスとユーリウスだけは両隣だから、ドアからやってくるけど。

 普通は結婚したら相手の家に入るのが常識だけど、私の場合は7人いるからそういうわけにもいかず――。

 そんなわけあって、この建物が建てられた。

 初めは通い婚で私だけが住める場所があればいいと思ったけど、いつの間にか全員分の建物が出来上がっていた。

 きっかけはエーリックの一言。

「俺、カレンと住みたい」

 エーリックの場合は次男だから継ぐ家もない。卒業したら当然家を出ていかなきゃならない。そういう背景もあったから「わかったわ」って承諾したら、ほかの六人も「じゃあ俺も」「俺も」と次々言い出して、今に至るってわけ。

 イリアスもユーリウスも次期当主だから実家で仕事したほうが楽なんだろうけど、今では仕事の半分以上をこっちに持ち込んでやってるんじゃないかしら。

 まあたまに領地に行かなくちゃできない仕事もあったりして、そういう時は留守するけど、ほとんどがこっちにいる状態。

 大変だろうけど、逆に貴族になりたてのバルタザールにとっては、わからないことを色々聞ける相手が身近にいるのは良いみたい。

 イリアスたちに色々質問してるのを度々見かけるし。

 うん、仲良くやってるみたいで良かった。

 継ぐ家はないエーリックは勿論騎士として頑張ってるわ。

 ラインハルトも教師を続けているし。

 フェリクスもレコも頑張ってる。


 あ、今イリアスとユーリウス、エーリック、フェリクスがパパ主張権を争っている間にレコが気づかぬ内にイリゼに近づいて「パパだよ」って笑いかけてるわね。

 うーん、誰も咎めないのはレコの性格の賜物ね。平和主義万歳。

 ソファーに座っているバルタザールはちょっと呆れた感じで見てるけど、イリゼを溺愛してるのを私は知っているわ。

 「パパだよ」と強く主張しないことすれ、イリゼを見る目がすごく優しいもの。 

 この前の二人っきりで過ごす夜の前に、まるで宝物を抱いてるように腕の中で優しく揺すってイリゼを寝かしつけていたわ。窓から降り注ぐ月光も相まってその光景を見た時、胸がじんわり温かくなった。

 すごく幸せだなって。

 意外に無欲の勝利で、バルタザールがイリゼのパパ呼びをゲットするかもしれないわね。

 さて、ひとり涼しい顔で窓際で椅子に座って本を読んでいるのはラインハルト。

 みんなと一緒にパパ呼びの輪の中に加わったところをまだ一度も見たことがないのよね。

 流石大人の余裕ねって感心してたんだけど、この前違うことが判明した。

 イリゼが寝ている時はみんなそっとしておくんだけど、そんな状況でラインハルト以外誰もいなかった時があったの。カップを片付けに行って部屋に戻ったら、ラインハルトがベビーベットを覗き込んで「パパだよ」って囁いてるところを見たわ。

 寝ている隙に潜在意識に刷り込もうという魂胆ね。無欲に見せかけて意外とあざといところがあったみたい。


「カレーン!! 会いに来たぞー!」


「元気だったかー?!」


「お父様! お兄様!!」

 

 突然バンと扉を開けてやってきたのはお父様とお兄様。


「また来たのですか、お父様、お兄様」


 呆れたように言うと、お父様とお兄様は片眉を上げた。


「当然だろう。可愛い娘に会いたいと思うのは親として当然の気持ちだ」


「そうだぞ。あのままずっと一緒に暮らせばいいのにお前が家を出るってきかないから、こうしてこちらから会いに来てるんじゃないか」


 それにしても、来る頻度多すぎでは? 二日前にも来ましたよね?

 そうなのよね。家を出るって決めた時、お父様とお兄様に盛大に引き止められた。

 相手が七人いるなら、決まった家に嫁ぐ必要もない。向こうがこっちに定期的に来ればそれで済むって。

 いやいやいや、お兄様、あなたこの家、継ぐんですよね? 結婚してお嫁さん迎えますよね? それなのに私がずっと小姑のように居座っていたら、来るはずの縁談も来なくなっちゃうわよ。

 当時の心境を思い出して私が内心呆れたのをよそに、お父様とお兄様がこれまた今まで幾度も繰り返した光景を眼の前で繰り広げる。

 

「おおー、我が孫、イリゼ! 会いたかったぞ!」


「はあ。相変わらず可愛いなあ。イリゼ、おじちゃまが来ましたよー」


 ベビーベットを覗き込むふたり。


「見れば見るほどカレンにそっくりだ。まるでカレンが赤ん坊に戻ったんじゃないかと気さえしてくるよ」


 お父様がイリゼを抱き上げる。


「そうですね。目といい、鼻といい、口といいカレンの特徴を受け継いでる」  


「こうしていると当時を思い出すな。もう一度子育てするのも悪くない。どうだ、イリゼ、我が家の娘になるか?」


「お父様、何を言って――」


 お父様の本気とも冗談ともつかぬ台詞に口を出そうとした時――


「っぱ、っぱ」


「!?」


 ――え? 今のってまさか……

 聞き間違いかと思って聞き流そうとしたら――

 抱き上げられたイリゼがお父様に手を伸ばしながら再び――。


「っぱ、っぱ」


 ――今のは聞き間違いじゃないわよね?

 私と同様、お父様まで固まっている。


「い、いま、パパと言ったぞ……」


「……そうですね、間違いなく」


 隣にいるお兄様も頷く。


「っぱ、っぱ」


「ほらまた言ったぞ!!」


 お父様が興奮のままイリゼを高く持ち上げる。

 それに声をあげて喜ぶイリゼ。


「っぱ、っぱ」


「そうか、そうか、カレンにそっくりならパパを私と思うのも至極当然!! イリゼ、我が家の子になるか!?」


「良いですね! うちに連れ帰って我が家で育てましょう!!」 


 浮かれ騒ぐお父様とお兄様とは対照的に、男性陣七人が醸し出す空気のそれはそれは冷ややかなこと。


「ありえねえ……」


「嘘だろ……」


「そんな……」


「…………」


 悲哀と嘆きがこもった目線がお父様たちに突き刺さる。

 あ、イリアスの目からは殺意らしきものさえ……!


「も、もう、こうなったら全員パパでいいんじゃないかしら。アハハハ……」


「「「「…………(七人一同)」」」」


 空気を変えようとフォローするも、全く効果なし。私のから笑いだけが虚しく空間に響いたのだった。


「っぱ、っぱ」


「うんうん、そうかそうか。そんなに私がいいか」


 相変わらずお父様とイリゼの掛け合いは続いている。

 ……というか、あれ、イリゼ「パパ」と呼んでるんじゃなくて、口を開く時の破裂音が楽しくてやってるだけなんじゃ……?

 そしてそれに反応するお父様が面白くて繰り返してる気も……。

 うん、なんかそんな気がしてきた。


 男性陣にはまたあとでフォローしときましょう。


 こうしてまた賑やかしい一日が過ぎていく。

 これが私の今の日常の一コマ。


 これからもきっとこうして生きていくんだろうな。

 大切な人達に囲まれながら。


 それから何年か経ち、それぞれの特徴を持った息子や娘が産まれてくるのを、今の私たちはまだ知らない。

 その時は当然こんな争いしなくても、パパ呼び獲得はただひとりのものになるけどね。

 

 





最後までお読み頂き、ありがとうございました!m(_ _)m

楽しんで頂けたら幸いです(◡ω◡)


ちなみに「イリゼ」はフランス語で「虹色」という意味があります。

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