第42話 橙色の追憶①
寒風が吹き荒れる真冬の道場は物凄く辛い。
何が辛いかというと、まず床が冷えている。常に裸足で修練する僕にとって、これほど辛い事はない。
しばらく動いていれば体が温まってくるので、それまではひたすら我慢しなければならない。
だが冬場は、それ以上に辛いことがある。
それは祖父と話す事だ。
決して祖父を嫌っているわけではない。この冷たい床で何時間も正座し続けるのが辛いのだ。
唯一の暖房器具の古い石油ストーブは、風通しの良い道場とは相性が悪く全く暖まらないし、動いている訳でもないので体は冷える一方だ。
「蓮。次の口伝を教えるので来なさい」
道場で片稽古をしている僕に祖父が声をかける。そう言われ、嬉しい反面不安にもなる。
「どんな技で、どんな修練をするのか知らないけど、寒さに耐える修練以外でお願いします」
「安心しろ、時間はかからんさ。打震を習得していればな」
僕と祖父はストーブを横に向かい合って座った。
案の定、僕のスネにひんやりとした感触が伝わる。
「これから教えるのは二代目人明流の口伝、”穿打”だ」
「うがちうち……言いにくいね」
僕の率直な感想を無視して祖父は続けた。
「よいか蓮、この口伝は打震から発展した打撃術だ。理屈の前に、実際に受けてみると分かりやすいだろう。立て」
こういう時、祖父は手を抜くという事を知らない。不安が増し、僕は首を横にふる。
「い、いや、まずは理屈から知りたいかなぁ……!」
「立て」
こういう時、祖父は人の話を聞かない……。
抵抗は虚しく、僕は祖父に背中を向けた。曰く、背中への打撃なら安全だそうだ。
祖父は僕の背中に手を当てる。
「まずは普通に、ここに打つぞ。安心しろ軽い力でやる」
「本当だろうね!? そう言って何回騙されたか!」
「心配するな。いくぞ……」
ーートン!
背中に祖父の拳が当たる。
確かに軽い。小突かれた程度だ。
「今のと全く同じ力で”穿打”を使う。行くぞ……」
「うん! いいよー!」
この程度なら、と安心して僕は返事をする。
ーートン!!
(……? 失敗かな? さっきと大して変わらな……い……)
段々と内臓に違和感を覚える。衝撃がゆっくりと浸透していくように、段々と。
やがてその違和感は、胃袋がひっくり返るような苦しみに変わる。
「〜〜〜〜!!!!!!」
「深呼吸しろ、深呼吸だ」
苦しさにのたうちまわり、僕は必死に呼吸を整える。
感覚が戻り、ある程度回復すると、祖父は説明を続けた。
「同じ力でも、入れ方を変えるだけで打撃はここまで変わる。これが戦闘中であれば、一撃で決着がつくだろう」
「よ〜〜く、分かったよ……凄い技だ……」
「ふむ、よろしい。では具体的な修練に移ろうか」
視界が歪んだ。
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