第41話 掴む
猛攻は止むことなく降り続けていた。
背中を預けあったエミーとガットはそんな猛攻の雨の中でも、なんとか生き残っている。
既に周りで立っている人間の姿はなく、冒険者達は傷つき、倒れ伏している。
スミスとノエルも、まもなくやってくるだろうか……? そう思うと、少し寒気がした。
あのスライムの触腕は無数に生え、未だに減ることを知らない。
スミスやノエルが来る前に何とかしなくては。このままでは、また誰かを危険に晒すことになる。
「ガッド!! エミー!!」
「なんだ!!」
「なに!!」
振り向かず、言葉を交わす。
「このままじゃジリ貧だ! 僕はスライムの本体を攻撃しようと思う!! ここは持ち堪えてくれるか!!?」
「何ッ!? 出来るのか!?」
「分からない!! でも、やれる事はあるはずだ!!」
「……分かったわ!! ここは任せて行ってちょうだい!!」
エミーはそう言うと、片手のダガーを振りかざし、触腕を払い退ける。ガッドも盾を駆使して体を入れ替える。
そのおかげで、見事に前が開けた。
触腕はまだウヨウヨしているが、竜歩の加速で通り抜けられるだろう。
「背後は任せて! 構わず行ってちょうだい!!」
「ありがとう!! どうか無事で!!」
「アンタもな!」
竜歩を使い、触腕の間を縫うように駆け抜けた。
走る、走る、走る。
地面から、空から、幾度も襲い来る触腕を躱しながら必死に走った。
やがて、僕の目の前には2メートルほどのスライムが現れる。
球根のように地面に根を張って、赤黒い粘液が蠢いている。
「お前が本体か!!」
声を上げて間合いを詰める。
スライムも僕の存在に気が付き、細い触手を鞭のようにしならせた。
「また貴様か……。何故そうも私の計算外の行動をするんだ。さっさと壁外へ逃れればよいものを……」
「そんな事出来るか!! お前を倒さなきゃ、メルクの住民達が安心できないだろ!!」
本体に近い触腕は、先ほどまで相手にしていた物より明らかに俊敏だ。
僕は避けつつ、隙を伺う。
「本当に分からないな。街の防衛を兼ねる冒険者達はともかく、お前自身に一体何の得があるというのだ」
「……僕ら人間の力は、単純な損得で測れるようなものじゃない! 覚えておけ!!」
ーー瞬間、触腕の間に隙が生まれた。
竜歩。
真っ直ぐに、本体へ走り、打震。
僕の右手にスライムの内部構造が伝わり、打った箇所からぐわりと揺れる。
だが、それと同時に、スライムの本体が四方に割れ、巨大なアメーバのように僕の体を包み込んだ。
僕は再びスライムの体内へ取り込まれた。だがそれはわざとだ。
今の打震によってその位置は特定していた。
あとは手を伸ばし、”それ”掴み取るだけ。
(くそっ! あと、もう少し……!)
このままでは呼吸がもたない……。
心臓が鼓動を早め、体が緊張する。
(がんばれ僕……! それでも勇者かッ!!)
心臓が張り裂けそうになり、肺が酸素を求めて声門を叩く。
(僕がやらなきゃ……!! 仲間達がッ!、冒険者やメルクの人たちが!!)
途切れそうな意識を必死に繋ぎ止めながら、仲間達の顔を思い出す。
僕を助けて傷つき倒れたサリーの顔、僕の無事を信じて中央で指揮を執っているアルドの顔、心から僕を心配してくれたスミスとノエルの顔。
(そうだ……! 僕を信じてくれた皆の信頼に応えるんだ!!)
その時、何かが強く背中を押したように感じた。
それは、スミスとノエルに貰ったおまじないであり、ガッドとエミーに預けた背中、そして、ルイスがいた場所。
そうして僕は、やっと”それ”を、”記憶の鍵”を掴み取った。
(さあ、教えてくれ僕の記憶!! みんなの信頼に応えるためにも! このスライムを倒す方法を、技を……!)
すると、僕の強い想いに呼応するように、鍵は橙色の輝きを放ち始めた。
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