第1話 冒険者ノエル
修道服を脱ぎ、冒険者らしいマントと革の防具とブーツ。
元修道女、ノエルがそこに居た。
彼女からジャーキーを奪い取って機嫌を直したサリーとは反対に、レンとスミスは目を丸くして驚いた。
「な、なんでノエルが……」
「えっと……どうする!?」
「はぐはぐ……」
一方で、アルドは落ち着いた様子だった。
笑みを浮かべながら、ノエルを樽から出すために肩を貸している。
「ノエル、どうしてついて行きたいんだい? 私たちの旅路は”神を打破する”ものだと、伝えたはずだが」
「ええ、確かに聞きました。アルペウス神がレン様へ向けている理不尽も、です」
アルドに支えてもらいながら、荷台の床板に足をつけると床の軋む音がした。
「私はずっと、神の教えを信じて生きてきました。神は全てをお救い下さる、神は人々を愛していらっしゃる、神は正しい導きを与えてくださる。しかし……レン様に下された所業は、神の教えに反するものでした……」
そう。勇者とは、神器を持たせるためだけに召喚された兵器。
神にとって都合のよい人形だった。
だが魔界で神器を失ったレンは、神にとってはただの邪魔者でしかない。
理不尽に呼び出され、使われ、失敗すれば破棄される。
勇者とはそういう存在だったのだ。
「私、ずっと不思議に思っていました……人々に神の教えを説いても、必ず救われない者がいる事に」
ノエルにとっては辛い過去。
妻を亡くした老人に投げつけられた言葉のナイフ。
『何も知らないくせに! 偉そうな事を言うな!!』
だがそれは、ノエル自身の考え方を大きく変容させた。
多くの宗教家達が抱える盲目的な視野を塗り替える程に。
「そして、闘技場での出来事をお聞きして、確信しました。”神は、人を見ていない”と」
「ああ。私も同意見だ……」
アルドは頷きながらその場に座った。
「だがなノエル、君にとっては辛い旅になるぞ。君が今まで信じてきたもの全てを、私たちは否定して行く。その覚悟はあるのかい?」
レンも、スミスも、サリーもただ黙っている。
ノエルの言葉をしっかりと聞くために。
「アルド様……私は、皆様に人間の輝きを見ました」
「!」
アルドの瞳が大きくなる。
その言葉の意味は、彼自身がよく知っている。
「いつだって皆様は誰かのために行動できる。たとえそれが、見知らぬ誰かであっても、手を差し伸べて下さいます」
「そうかしら?」
「そうですよ、サリー様! 貴女はメルクの住民を見事に守ったではありませんか!」
「……あれは、まあ、そうだけど」
サリーは顔を少し赤くして俯いた。
「皆様はいつだってお互いを、見知らぬ誰かでさえも尊重して生きている。それはきっと、私が信じてきた”神の教え”以上に尊いものです」
皆、ノエルの言葉を受け止めた。
アルドはそれぞれの顔を見回して言った。
「そうか、では皆……」
「ああ」
「うん!」
「サリー、いいかい?」
サリーの顔はまだ赤らんでいるためか、アルドに問われて彼女は思わずまた顔を伏せた。
「……当たり前でしょ! 本当言うと、ちょっと嬉しいくらいよ……」
「決まりだ!」
アルドがそう言った瞬間、レンとスミスも立ち上がる。
「一緒に行こう! ノエル!」
「はい!」
レンとノエルは、固い握手を交わす。
こうして、一行の旅路に新たな仲間が加わったのだった。
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