第52話 依頼
スライムのメッカを倒した後、2日が経った頃。
レンとサリーは療養のためにメルク城の小さな病室に滞在し、その間、二人の病室には様々な見舞客が顔を出した。
冒険者ギルドのギルド・マスター、エミーは派手な花束を持って来てくれた。
彼も療養していたはずだったが、パブ兼ギルドの再建を急ぎたいので傷の残る体で頑張っているらしい。
それに合わせてか、別の施設に入院していたほとんどの冒険者達も既に街の復興作業に出ているとのこと。
「元勇者様、貴方のおかげでメルクはまた立ち上がれるわ。あの怪物を倒してくれてありがとう!」
エミーは、恭しくお礼を言う。それに謙遜しつつ、レンの方もお礼を返した。
そうして冒険者達の近況やら、店の再建作業やらの話をしていた頃「ところで……」とエミーが切り出した。
「ずっと聞きたかったんだけど、どうやってあのスライムを倒したのかしら?」
「エミー、聞いても無駄よ。コイツ、口伝やら奥義だなんだって教えてくれないの」
サリーはここ数日、隣のベッドで散々「教えろ」と凄んでいたが、レンはそれに耐え続けていた。
この異世界で肉親の居ないレンにとって、”口伝”は自分の家族、もとい一族との大事な繋がりだ。
それは書物に残す事すら厳禁の秘技中の秘技。
簡単に話してしまうのは、一族との繋がりを断たれるような気がしてレン自身、怖かったのだ。
「ごめんね……」
「う〜〜ん。ぜひ教えて欲しいわ。もし本当に魔法を使わずスライムを倒せるのなら、メルク防衛に物凄く役立つのだけれど」
「……レン、スライムを倒す方法って、難しいのかしら?」
サリーも隣のベッドから声をかけた。
そんな彼女の眼差しには、「絶対に教えてもらうぞ」という圧力を感じる。
「え、そ、そうだね……ちゃんと習得するためにはそれなりの訓練が必要だし、時間もかかるよ」
「そのスライムを倒した技って、元はスライム戦も考慮してたのかしら?」
「た、たぶんしてないよ……全部の記憶を思い出したらって約束でしょ? 勘弁してよサリー」
レンが不審そうな目を向けると、サリーはそっぽを向いて話し続けた。
「分かってるわよーー。」
空返事をするサリー。
レンとしては、彼女には是非『我慢する』という事を覚えて欲しい。
「……元勇者様? それでも何とかお願い出来ないかしら? その”口伝”っていうの。スライムを魔力を使わず倒せる方法が広まれば、クエストの生存率もかなり上がるわ」
「スライムってそんなに厄介なの? 魔法が使えるなら敵じゃないと思うけど……」
「そんな事ないわ!」
エミーは突然、熱弁をふるい始めた。
「スライムを倒せるのは属性魔法をある程度使える人に限られてるの! よく居るタイプの肉体強化系や黒魔法使いでは、スライムは対処出来ないわ。かと言って、群がるスライムを一体一体魔法で倒していたら魔力が消耗していく。長い旅路を行く冒険者にとって魔力の消耗は大敵よ。強いモンスターを相手取る時に魔力切れなんて、目も当てられないわ!」
熱が入りすぎて首に青筋が立っている。
だが、エミーの言っている事も一理ある。熱弁を受けて、レンも迷った。
(教えるべきか……。いや、教えた方がメルクのためになる事は間違いない……)
そう思ったレンの脳裏に、過去の記憶がフラッシュバックした。
先日思い出したばかりの、魔法都市ザグラムの地下迷宮での記憶。
自分のこだわりを捨てて、”7代口伝 繋雪”を使ったあの時を。
(今こだわっている、口伝を誰かに教えるという事。あの時と同じなのでは?)
過去にレンが抱え込んでいた人明流への”想い”は間違いなく憎悪や嫌悪の感情だった。
なぜそこまで嫌悪していたのかは思い出せないが、ザグラムの地下迷宮ではそんなこだわりから『人明流を使うくらいなら死ぬ』と思う程だ。
だが、そんな想いはレン一人で抱え込んでいたちっぽけな感情だ。
仲間達の”信頼”に比べれば。
(そうか……エミーが僕に寄せている感情、これも”信頼”か。なら、僕の抱えたこだわりなんて……)
気がついた瞬間、レンの心がスーーっと澄み渡ったような気がした。
つい先ほどまで抱いていた”口伝を教えることへの抵抗感や恐怖感”はどこかへ飛んでいった。
「どうかお願い……! この都市の、いえ、住民達のために、どうか力を貸して!」
「いいよ、分かった!」
「そう……やっぱりダメよね……え?」
ガックリと肩を落としていたエミーの顔が上がる。
レンはそんなエミーにもう一度言った。
「だから、分かったって。引き受けるよ」
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