第53話 レクチャー
翌日、エミーの号令で手の空いている冒険者達が集められた。
場所は戦いの傷が残る西の大門広場。先日の戦闘でエミーに爆破され、大打撃を受けたため、通行止めして修繕作業中である。
現場には多くの足場が組まれ、職人達が慌ただしく働いていた。
「オホン! みんな、よく集まってくれたわね!」
門前の広場には数十名の冒険者達が集結していた。
彼らは皆、魔法なしでスライムを倒したレンの噂を聞きつけてやって来ている。
「もう十分集まっているようだし、早速始めましょうか! それじゃあ、お願いします、元勇者のレンーー!」
「元勇者は付けなくていいって……」
レンが現れると、冒険者達の歓声が上がった。
作業をしている職人達も、手を止めてレンに好奇の視線を向ける。
どうやらレンの噂は都市中に広まっているらしい。
「ええと……今日はエミーさんに頼まれて、スライムの倒し方をお教えする……」
言葉が詰まる。
簡単に自分を言い表そうと、レンは頭を捻ったが、パッと思い浮かんだのは先ほど自分で『付けなくていい』と否定した言葉。
「……元勇者のレンです。よろしく……」
「「「おおお〜〜〜!!」」」
自分で言って恥ずかしくなり、レンは思わず顔を手で覆った。
「頑張れ〜〜レン!」
群がる冒険者達の最前列に蘭々とした眼差しのアルドが声をあげた。
ちゃっかりレンの講座を聞きに来たのだ。
因みにサリーは暑苦しいと言って、遠くからレンの姿を観察している。
浮かれた元王子の姿を見て、レンは自分が恥ずかしがっていることがバカらしくなった。
(もういいや。気にせず始めよう)
◇
「先日スライムを倒したのは”穿打”という技です。そして、今日皆さんにお教えするのは、この技の練習方法です」
”穿打”の概念は技ではなく”口伝”であり技を構成する理論だが、解説しにくいので、レンは技として紹介することにした。
「本来は長い年月をかけて習得するものなので、今日教わってすぐ出来るというものではありません。だから、その習得方法を伝授しようと思います」
そう言うと、冒険者達はざわつき、少し戸惑ったような視線を向けてくる。
だがレンは気にせず続けた。
「さて、”穿打”の前に、先ずは基本の突きをお見せしましょう」
そう言って、レンは長テーブルに置かれた煉瓦を一つ手にとった。
そして冒険者の一人に持たせ、煉瓦の面をこちらに向けさせる。
「しっかり持っててね」
「は、はい。一体何を……」
レンの不可解な行動に、冒険者達はますますざわついた。
向かい合うレンと煉瓦を構えた冒険者。
彼らのざわつきがおさまったのは、この一瞬だった。
「ーーふっ!」
レンの呼気と同時に、拳が放たれた。
冒険者の手には粉々に砕け割れた煉瓦の欠けら。
「ーーな!」
その瞬間、遠くからそれを見ていた職人達は、驚きのあまり道具を地面に落とす。
職業柄彼らはよく知っている。どんな雨風に晒されようと、荷馬車がぶつかろうと、矢が放たれようと、決して砕けない煉瓦という建材を。
重く、硬いこの建材は、撤去に多大な労力を必要とする。その為、肉体強化した力自慢に鋼鉄製ハンマーを待たせ、それでやっと叩き壊す事ができる。
魔法の使われていない生身の拳が、鋼鉄と同等の強度を持つことなど、信じられるハズがなかった。
「嘘、だろ……強化魔法なしで……」
門で作業している職人達は一様に絶句していた。
一方、手の中で粉々になった煉瓦を見て、冒険者は絶句し、それを見ていた他の冒険者達も口々に驚きの声をあげている。
「なんだ今の!? 魔法は……使ってない、よな?」
「え、ええ……魔力は欠けらも感じなかったわ」
「どうなってんだ……魔法もなしで……」
「あんなことしたら拳の方が割れちまうよ……」
動揺で慌ただしくなった冒険者達を見て、レンは掌をふる。その拳は割れるどころか傷一つ付いてない。
騒ぎ立てる冒険者達を宥めるように、レンは「オホン」と咳払いをして静寂を呼びかけた。
やがて静かになったところで、話を続ける。
「このように、しっかり鍛錬すれば煉瓦くらいは砕けるようになる。魔法はなくとも、ね。ただ、これと同じ事は強化魔法を使える皆さんにもできるでしょう。さて、本題はここから!」
続いてレンは、長テーブルに一列に並んだレンがを前にする。
「”穿打”の原理を分かりやすくするために廃材を用意してもらいました。職人の皆さーーん! ご協力ありがとう!」
レンは、ずっとこちらを見てくれている職人達に手を振る。
彼らは少し気恥ずかしそうにしながらも、笑みを返した。
「ここにあるのは、さっき砕いた煉瓦と同じもの。”穿打”の効果を分かりやすく見てもらえるように一列に並べてもらいました」
長テーブルの側面に立ち、レンは拳を構える。
「皆さん、どうなると思いますか??」
「どうって、そりゃあ……」
冒険者達は頭にはてなマークを浮かべた。
やがて、先頭に居た一人が声を上げる。
「一枚目はさっきの煉瓦と同じですよ。突きの威力を上げてもう2枚、3枚と割れる。それこそが”穿打”ってところでしょう」
いかにも冷静そうな顔立ちの彼は淡々と言った。
その表情を見て、レンは笑顔を作ってみる。
「う〜〜ん、惜しい! 正解はこう!」
ーーヒュッ
彼の拳が空気を薙ぐ音の後、煉瓦に激突した。
その瞬間、周囲の人間にとっては不可解な現象が起きた。
「え!?」
「何で!?」
周りの声がざわめき立てる。
レンの放った衝撃は、1つ目、2つ目、3つ目の煉瓦をすり抜け、4つ目の煉瓦のみを破壊していた。
「正解は、四番目だけ割れる、でした」
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