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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第2章 ただの料理人なのか?

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第8話 その肉、こんなに美味しくなるのか?

 翌日の昼下がり、ピークの引いた店内にガラガラと引き戸の鳴る音が響いた。


 入ってきたのは、昨日レッサーワイバーンを持ち込んできたあの三人の冒険者だ。また大きな荷物を背負っているわけではない。どこかソワソワとした様子でカウンターの端に腰を下ろす。


「親父さん……昨日のワイバーンの肉、まだ残ってるか?」


 俺は仕込みの手を止め、保冷用の魔導箱に視線を遣った。


「少しならあるぞ。どうした、また食っていくかい?」


 三人が一斉に頷く。リーダー格の男が、どこか照れくさそうに頭をかいた。


「いやさ、昨日ここで食った後、ギルドで引き取った残りの肉を自分たちで焼いて食ってみたんだよ。そうしたら……まあ硬ぇのなんのって。臭みも強くて、顎が外れそうになった」


「そうだぞ親父さん。ワイバーンの肉なんて、本来は冒険者でも『腹を満たすためだけに噛みちぎる』ようなシロモノなんだ。脂はしつこいし、下手に焼いたら靴底みたいに硬くなる。なのに昨日の肉は、なんであんなに普通に食えたんだ?」


「そうか?」


 俺は首を傾げた。


「魔物の肉なら、あの程度の癖や筋はあるだろ」

「いやいや、全然違うって!」


 食い下がる彼らに苦笑しつつ、俺は保冷箱から昨日のワイバーンの肉塊を取り出した。


「まあいい、ちょうど昼飯時だ。もう少ししっかり調理して出してやるよ」


 作業台に肉を載せ、いつもの包丁を握る。


 肉の表面を見て、余分な脂を削ぐ。


 赤身の中を走る筋に刃を入れ、硬いところだけを外していく。繊維の向きを確かめながら浅く切れ目を入れ、火を通しても肉が縮まないようにする。


 最後に厚みを揃えれば、下処理は終わりだ。


 肉は、切るところを切れば美味くなる。


 下処理を終えた肉に軽く塩と胡椒を振り、熱した鉄板へ載せた。


 ジュゥゥッ!


 香ばしい煙が立ち上る。

 最初は強火で表面をサッと焼き固めて肉汁を閉じ込め、すぐに火を弱める。

 じっくりと芯まで熱を通したら一度火から下ろし、余熱で肉を休ませる。仕上げに、果実酒と醤油を煮詰めた特製のソースをサッとかけて絡めた。


「お待たせ。ワイバーン肉のステーキだ」


 皿を差し出すと、三人は生唾を飲み込み、ナイフとフォークを伸ばした。

 肉に刃を入れる。


「……あ、すっと切れる……」


 切り分けた肉を口に運ぶ。


「……なんだこれ……!?」

「柔らかい……! なんだこの肉、噛むと肉汁が口いっぱいに広がるぞ! 臭みが完全に消えてて、脂が甘ぇ……!」

「嘘だろ、昨日食べた肉と同じレッサーワイバーンだぞ!? こんなに美味しくなるのか!?」


 俺は手ぬぐいで手を拭きながら答えた。


「何をしたって、硬い筋を取って肉の厚みを揃えただけだぞ。あとは焼きすぎると硬くなるから、火の通し方に気を遣ったくらいだ。料理人なら誰でもやってることだ」

「やってねえよ! 少なくとも俺たちが今まで行ったどの店でも、こんなワイバーン肉食ったことねえ!」


 あっという間に皿を平らげた三人は、心底満足した顔で代金を置いた。


「ごちそうさま、親父さん! また美味い肉が手に入ったら絶対に持ち込むよ!」

「おう、待ってるよ」


 店を出ていく冒険者たちの声が路地の向こうへ遠ざかっていく。


「おい、あの食堂の親父、ワイバーンの肉を絶品ステーキに変えちまうんだぞ!」


 そんな声が聞こえてきた。


 俺は厨房の片付けをしながら呟いた。


「絶品ステーキ、か。 ワイバーンの肉が良かったんだろうな」

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