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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第2章 ただの料理人なのか?

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第7話 レッサーワイバーンを解体する

 数日後、昼のピークを過ぎた店内には、近所の住民だけでなくチラホラと冒険者の姿が混じり始めていた。


「ごちそうさま、親父さん!」

「おう、ありがとよ」


 昼のピークを過ぎても、カウンターには何人か客が残っている。最近は「この店、うまいぞ」と誰かに教えてもらって来た、という客も増えてきた。冒険者だろうと職人だろうと腹は減る。俺にとっては、注文を受けて料理を出す相手という点では何も変わりない。


 そんな折、大きな背のうを担いだ三人の冒険者がガラガラと戸を開けた。三人とも肩を落とし、カウンターの端に腰を下ろした。


「親父さん、冷たい水と適当に火の通ったものをくれ……」

「あいよ」


 お冷やと残り物の野菜炒めをサッと出すと、彼らはかぶりつくように平らげた。


「……生き返った」


 一人が腹をさすりながら、ふぅと息を吐く。


「助かった……ギルドの解体場がごった返しててさ。レッサーワイバーンを仕留めたまではよかったんだが、解体待ちで半日潰れそうだったんだよ」

「レッサーワイバーンか。大物だな」

「ああ、皮も硬ぇし骨も太い。ギルドで解体してもらわなきゃ肉も持ち帰れねぇからな……なぁ親父さん、食える部位だけでいいんだが、ここで解体してもらうなんてのは無理だよな? 料理人なら肉の切り出し目当てで、多少扱えたりしないか?」


 仲間が「おい、無理を言うな」と嗜めたが、俺は少し考えてから包丁立てに視線を遣った。


「食べる分だけでいいなら、俺が捌こうか? ちょうど裏の作業場が空いてる」


 三人が顔を見合わせた。


「いや、無理ならいいんだぞ? レッサーワイバーンだぞ。普通の包丁じゃ刃が通らねぇし、皮を削ぐだけでも一苦労だ」

「大丈夫だろ。肉を切るだけなら、いつもやってることだ」


 俺があっさり答えると、三人は顔を見合わせた。


「……まあ、親父さんがそう言うなら」


 半信半疑のまま、三人は獲物を裏の作業スペースへ運び込んだ。


 横たわるレッサーワイバーンの巨体。硬質な鱗に覆われ、太い筋線が走っている。


「解体道具ならギルドで借りてくるか?」

「いらねえよ」


 俺はいつもの三徳包丁を一本、包丁立てから抜いた。


 魔物の身体を一目見る。


 どこに関節があるか。筋はどこを走っているか。

 目で追っていけば、刃を入れる場所は自然と決まった。


(ふむ、皮の繋ぎ目はここだな)


 力を込めず、鱗の隙間へ刃を滑らせる。


 すっ。


 硬い皮が、刃先に沿ってするりと開いた。


「……え?」


 冒険者の一人が奇妙な声を漏らした。


 俺は構わず作業を続ける。翼の付け根へ刃先を向け、関節の隙間へ滑り込ませた。

 コッ、と軽い手応えが返ってきた。

 靭帯を切ると、巨大な翼が外れる。骨を避ければ、それで済む。


 すっ、すっ、すっ。


 刃を入れるたび、赤身、バラ肉、スジと、部位ごとに肉が外れていく。

 骨に残った肉もほとんどない。切り口は均一で、余計な筋も残っていなかった。


 作それから数分後。

 最後の肉を切り離した。


「よし、こんなもんでいいか?」


 包丁を拭いながら振り返ると、三人の冒険者は口を大きく開けたまま、しばらく石のように固まっていた。


「……は?」

「お、おい……嘘だろ……?」

「俺たちがギルドで立ち会ったら、半日仕事の解体だぞ……? なんで数分で、しかもそんな綺麗な部位分けが……!?」


 頭を抱えて慄く彼らに、俺は首を傾げた。


「そうかい? 肉を無駄にしないように構造に合わせて切っただけだぞ。三十年も包丁を扱っていりゃ、これくらい誰でもできるさ」

「できるわけねえだろ!! どんな手品使ったんだよ!?」


 心底恐ろしいものでも見るような目の冒険者たちを余所に、俺は切り分けたばかりの肉を一切れ手に取った。


「せっかくだ、少し食っていくかい? 新鮮なうちに焼けば美味いぞ」

「え……あ、ああ。頼む……」


 困惑を隠せない彼らを客席へ戻し、俺は厨房へ入った。


 フライパンを熱し、塩と黒胡椒を振ったワイバーン肉を滑り込ませる。ジュゥッという激しい音と共に、香ばしい煙が立ち上る。


「お待たせ。シンプルな塩焼きだ」

「うわ、いい匂い……」


 おずおずとフォークを伸ばし、肉を口に運ぶ冒険者たち。


「……美味い」


 さっきまで強張っていた顔から、力が抜けていった。


「ああ、身が締まってるのに柔らかいぞ。普通に食えるな」

「新鮮な肉だからな」


 三人は顔を見合わせた。


「……まあ、いいか」


 それ以上は何も聞かず、皿の肉を食べ始めた。


「ごちそうさま! 親父……あんた、ただの料理人じゃないな」


 立ち上がり、代金を払いながらリーダー格の冒険者が言った。


「次にまた大物を仕留めたら、ここに持ち込んでもいいか? 勿論、解体賃も払う」

「食える肉なら、いつでも持ってこい。新鮮な食材が手に入るなら、こっちとしてもありがたいからな」

「助かるよ!」


 満足そうに店を出ていく冒険者たちの後ろ姿を見送りながら、俺は次の仕込みに取りかかった。

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