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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第8章 オークの異変

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第66話 鍛冶師

 鍛冶師たちは時間も忘れて炉に向き合い、魔鉱石を叩いていた。


「俺は十回打っても割れなかったぞ」

「そいつはすげぇ。俺は五回が限界だ」

「耳かっぽじって聞くんだ。魔鉱石の音をよぉ」


 鍛冶師が得意げに胸を張って魔鉱石へ槌を振り下ろした。


 キン――バキッ。


「あ、割れた」

「お前もまだまだじゃねえか」

「次だ次」


 鍛冶師は笑い声をあげ、砕けた破片を払い落とすと、すぐに新しい魔鉱石を火床から掴みだした。

 一度話を聞いただけでここまで形にするなんて、本場の剣職人はやはりすごい。

 俺なんて魔鉱石を割らずに叩けるようになるまでに十数年はかかった。


 鍛冶師たちの奏でる打撃音に耳を傾けながら、完成したばかりの片刃剣の木柄を削り出す。

 木屑が膝の上へぱらぱらと落ちていくのを眺めていると、入口の扉が開いた。


 扉の先には布包みを何本も抱えた騎士と冒険者が数名。


「ここでいいんだな騎士さん?」

「ああ、ご苦労」


 冒険者たちが次々に布包みを持ってきては積み上げていく。


 俺は早速積み上げられた布包みの山へ足を進めた。

 騎士が俺に気付いて声をかけてきた。


「これで足りるか?」


 布の中には剣が一本ずつ包まれ、使用者の名前まで記されていた。

 騎士さん、俺の約束を守ってわざわざ剣を持って帰ってくれていたんだ。

 余裕もないだろうにここまでしてくれて申し訳ない。


「ありがとうございます。あっ、そうだ……」


 俺は作業台から両刃の剣を取り、駆け足で騎士の元へ戻った。


「これ、使ってみてくれませんか。騎士さんのために打ったんです」


 騎士は目を見開き、両刃の剣を受け取った。


「これは……」


 近くにいた若い鍛冶師が気を利かせて試し斬りの鉄板と台座を持ってきてくれた。


「これで試してみてください!」

「ありがたい」


 騎士は台座の上に置かれた鉄板へ向かって剣を薙ぎ払い、そのまま切り返し一閃した。


 ザンッ――ザン。


 乾いた切断音が二回。鉄板が三つに切り落とされた。


「す、すげえ……!」


 後ろにいた冒険者が声を上げて俺の肩を掴み揺らした。


「な、なあ、俺にもあれ作ってくれねえか」

「待ってください、落ち着いて下さい」

「すまねえ、興奮しちまって」


 冒険者が俺の肩から手を離し、後ろ手を組んだ。


「そうですね、まずは、あなたが使っている武器を見せてもらえませんか」

「これだ、これ」


 冒険者は腰に差していた片刃剣を引き抜いた。刃の表面には曇り一つなく、傷は一切ない、真新しい片刃剣だった。

 違う。そうじゃない。


「今までに壊した剣は持ってますか?」

「壊した剣か……ちょっと待ってな」


 冒険者は布包みの山をがさごそと漁り始めた。


 数分もしないうちに「あった」と大声を上げて一本の布包みを引き抜いた。

 中から出てきたのは、ことごとく刃が潰れた一本の片刃剣。

 背にこそ傷はないが、これは中々だ。


「どうだ? できるか?」

「待ってくださいって。まずはどんな壊れ方をしてるか見ないといけませんから」


 よく見ると、刃先が全て右側に潰されるように折れ曲がっている。

 俺はこれを包丁を修理しているときに何度も見たことがある。

 彼は垂直に刃を入れられていない。おそらく原因は柄だろう。


「すみません、そちらの剣を貸してくれませんか」

「これか? 何するんだ?」


 冒険者が腰に収めた新品の剣を差し出した。


 俺はそれを受け取ると柄を外し、少し右へ回した。

 こうすれば、普段の持ち方で正しく刃が入るようになるだろう。


「これ、持ってみてください」

「なんだ? 何か変わったか?」


 先程の若い鍛冶師が鉄板を持ってきてくれた。


「振ってみてください」


 冒険者は言われるがまま剣を振り下ろした。

 納得いかなかったのか、何度か振り続けていた。


「どうですかね」

「何したんだ? 引っかからねえ」

「すげえやガルドさん、柄の向き変えるだけでこんなに変えちまうんだ。このおっさん試し斬りすると毎回刃をダメにするんだよ」

「なんだと坊主喧嘩売ってんのか」

「まあまあ」


 睨み合っている若い鍛冶師と冒険者の間に割って入った。

 今はこんな争いをしている場合じゃない。


「なあ、あんたガルドといったか、これと同じやつもう何本か用意してくれねえか」

「柄の向きを変えるくらいのことなら俺に任せろってガルドさんは剣を打ってくれ」


 俺が答えるよりも早く若い鍛冶師が胸を叩いた。


「あんだぁ? お前なんぞにできるのか」

「できるわい」


 仲がいいのやら悪いのやら。それならお言葉に甘えて俺は剣を打つとしようか。

 剣の山から布包みを一本引き抜こうとすると、鍛冶師から声を掛けられた。

 鍛冶師は布包みを開け、中に入っていた片刃剣を見て頭を抱えていた。


「これはどうすればいいんだ?」


 取り出された片刃剣は腹の部分にはあまり傷がないが、切先に向かうにつれ、損傷が激しくなっている。


「そうですね、切先の部分の刃肉を厚くしましょう。それと刀身を長くするとより使いやすくなると思いますよ」

「なるほど、確かにな。やってみるよ。ありがとなガルドさん」


 それからも鍛冶師たちからの質問は途切れなかった。

 若い鍛冶師は手帳を取り出し、俺が答えるたびにその言葉を書き記していた。


 気付けば夜も更け、横になる鍛冶師も何名かいた。

 それでも、まだ起きて作業をしている鍛冶師を見て回っていると、目の下にクマを作ったあの鍛冶師が目に入った。

 傍らには何本も布に包まれた剣が積みあがっていた。


「寝ないんですか」

「俺の故郷、樹海に近いんです。オーク共が出てきたら、真っ先に襲われるんです。だから、だから……」


 目にクマを作った鍛冶師は剣を打つ手を止めることなく答えた。

 手足は震え、浮き出た血管は蒼くなっていた。

 止めるのは酷だろう。だが、彼の身体がもたない。


 俺は男の脇に積まれた布包みを一本掴むと、隣で魔鉱石を叩いた。


「ガルドさん……何して」

「ここにある分、終わったらちゃんと寝てくださいね」


 俺も眠い。店の仕込みだってまだしてない。

 だからと言って彼一人に背負い込ませるわけにはいかない。


 眠気に耐えながら魔鉱石を叩いていると背後から足音が近づいてきた。

 レオンだった。

 彼は布包み三つ鷲掴みにすると無言で去っていった。

 レオンに続くように起きている鍛冶師たちが代わる代わる布包みを持っていく。

 気付いたころには山のように積まれた布包みはなくなっていた。


「さあ、寝てください」


 目にクマのある鍛冶師は涙を流しながらその場で横になった。


「面目ねえ……」


 男はズズズと寝息を立ててどっぷりと眠っていた。

 さて、後は彼らに任せて俺は仕込みに戻るとしよう。

 何も言わずに店を休んでしまってはお客さんに申し訳ない。

 俺は瞼を擦りながら鍛冶場を後にした。


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