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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第8章 オークの異変

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第65話 剣を作るということ

 周囲で様子を見ていた鍛冶師たちが一人、また一人と集まっていた。


「おい、それがあんたの打った剣なのか?」


 鍛冶師が俺の持つ両刃の剣を指さしていた。

 やっぱり少しおかしかったんだろうか。これなら騎士も振りやすいと思ったんだが。


「ええ、さっき仕上げたところです。どうですかね?」


 男がおずおずと手を伸ばしてきた。


「……少し、持ってみてもいいか?」

「どうぞ」


 男は柄を握ると二、三回軽く振った。

 ブゥン、と低い風切り音。


「な……っ!?」

「どうした、そんなに重いのか?」

「逆だ! 見た目はこんなにずんぐりしてやがるのに、軽い……! どうなってんだ!」


「俺にも振らせてくれ!」


 鍛冶師たちが押し合い、両刃の剣を取り合っていた。

 一人が分厚い鉄板を固定した台座を運んできた。


「こいつで試してみよう!」


 剣を持っていた鍛冶師はすかさず台座の前へ行くと躊躇うことなく刃を振り下ろした。


 ザシュンッ!!


 分厚い鉄板が真っ二つに裂け、床へ転がり落ちた。

 鍛冶師が鉄板を拾い上げ、断面を指さした。


「す、すげえ! 見てみろよこれ」

「まったく引っかかった跡がねえ、なあお前どれだけ力入れたんだよ」

「いや、俺はいつも通り振っただけだよ。それよりも刃を見てみろよ」


 鍛冶師は見せびらかすように剣を持ち上げた。


「か、欠けてねえ」

「すげぇ、次は俺だ。俺に振らせてくれ」


 騒ぐ鍛冶師たちの背後で、キーッと扉が開く音がした。

 誰も気にする様子はなく、剣に熱中していた。


「おい、騒がしいぞ。何だ」


 鍛冶師たちは声が聞こえないかのように、剣を取り合っていた。


「少しは静かにできないのか。全く」


 男は壁をゴンゴンと叩いた。外の光に目が慣れていなかったせいか、男の顔はぼやけて見えなかった。

 剣を振って騒いでいた男たちが振り返る。


「おう、グランツの所のせがれじゃねえか。どこほっつき歩いてたんだ」


 グランツ……?

 目を擦ってその男の顔をよく見た。

 苛立ったように眉間へシワを寄せているその顔。

 レオンだった。


 レオンは鍛冶師たちが振っていた剣に興味を示すこともなく、俺の元へ歩いてきた。

 何か言ってくるんじゃないかと一瞬身構えたが、ドスンと音を立てて丸椅子に座った。

 魔鉱石を掴み取ると左手を広げて手のひらをくいくいと曲げた。


「おっさん、邪魔だよ。ここ、俺の場所だから」


 レオンは俺のことなど気にする様子もなく、魔鉱石を炉に入れ始めた。


「すまないね」


 ここはレオンの場所だったのか。悪いことをしてしまった。

 俺が踵を返して歩き出そうとすると、後ろから低い声が響いた。


「おい……なんで、お前がここにいる?」

「ん?」

「お前がなんでここにいるかって言ってんだよ」


 レオンは赤々と熱された魔鉱石を俺の顔へ向けてきていた。


「その顔、その声、ガルドじゃねえか」


 俺のことを覚えていてくれたのか、それにしてもなんでこんなに怒っているんだ。

 工房に戻れと言っていたことを断ったのが気に障っていたのだろうか。


「お前は包丁職人をやめて料理人ごっこでもしてたんじゃねえのかよ。今更何のこのこ出てきてんだよ」

「何を言ってるんだ。ガルドさんは、俺たちに剣の作り方を教えに来てくれたんだぞ!」


 若い鍛冶師がレオンに食って掛かっていた。

 別に俺は剣の作り方を教えに来たつもりはなかったんだが……。


「たかが包丁職人のお前が、剣の作り方を教えるだと?」


 俺を睨みつけるレオンの前に若い鍛冶師が割って入った。


「これを見ろよ。ガルドさんが作ったんだぞ」

「なんだ、その不格好な剣は。設計図の指定どおりにも作れていないじゃないか。そんなガラクタで、まともに戦えると思っているのかよ」


 若い鍛冶師は自信満々な顔で指をくいくいと曲げて見せた。

 鍛冶師が鉄板の片割れを持ってきた。


「見てろよ」

「はっ、こんな不恰好なものが――」


 レオンはせせら笑いながら若い鍛冶師を見た。


 ザシュアッ――!


 鍛冶師が掲げていた鉄板が剣一振りで二つに割れた。


「嘘だろ……俺に貸せ」


 レオンは若い鍛冶師から剣をひったくると、自らもその鉄板の切れ端へ剣を振った。


 ザンッ! ザンッ!


 何度も剣を振る。鉄板が小さくなっていくにつれ、レオンが顔が歪んでいった。


「はぁ、はぁ……なんでこんなものが……こんなものが!!」


 レオンは膝から崩れ落ち、床へ両手をドンドンと叩きつけた。


「なんでだよ……! こんないい剣が作れるのに、なんでお前は今まで包丁ばっかり作ってたんだよ!」


 なんでって、それは――。


「俺は包丁職人ですから」


 レオンは俯いたまま、呟いた。


「分からねぇ……分からねぇよ」


 俺はレオンの横に歩み寄り、手を伸ばした。

 レオンは戸惑ったように俺の手を見たあと、パシィンと音を鳴らして跳ねのけた。


「俺だって打てるんだからな、俺だって」


 小さい声だった。

 レオンはブツブツ言いながらも炉に向かっていた。

 なんだ、子供のころから変わってないじゃないか。

 強情な所もあるが、人一倍負けず嫌いで鍛冶に向き合っている。

 この様子なら大丈夫だろう。


 俺は鍛冶師たちへ向き直った。


「皆さんの力が必要なんです。俺一人では、前線で戦う人たち全員分の剣を打つことはできません。だから、皆さんの力を貸してください」


 鍛冶師たちはぽかんと口を開けたまま俺の顔を見ていた。


「お、おう!」

「まかせろ! 俺たちにできることならなんでも言ってくれ!」

「この形なら俺たちでも打てる! 任せてくれ!」


 鍛冶師たちは魔鉱石を掴み上げるとすぐにでも打つ勢いだった。

 それではダメだ。


「待ってください」


 槌を振り上げていた鍛冶師の手が止まった。


「なんだ? まだ注文があるのか?」

「この剣と同じ形を量産したって、意味がないんです」

「あんなに切れ味が良かったじゃねえか。振りやすさだって段違いだったぞ」


 あの両刃の剣は騎士のボロボロになった片刃剣を見て、どうすれば振りやすいかを考えて作ったものだ。

 言うなればあの騎士専用の剣ということになる。それを量産したって意味がない。


「使い手を見るんです。どんな使い方をしたか、どんな壊し方をしたか……一人ひとりにあった剣を作らないといけないんです。」

「でもな、一人ひとりの癖をいちいち見て作っていたら、前線に数が届かないんじゃないか?」


 鍛冶師の言うことも分かる。だが、それをやってきた結果が現状だ。


「皆さんも見たでしょう。あの騎士さんのボロボロになった剣」


 鍛冶師たちは口をつぐんで頷いた。


「使い手に合わない剣を何十本配ったところで、数日も持たずに折れてしまえば、結局は武器が足りなくなります。数をそろえることだけを急ぐより、現場で壊れずに戦い続けられる一本を渡す方が、確実に命を守れるはずです」


 俯いたままの者もいた。

 頭を掻きむしって小言を呟く者もいた。

 一方で、「……俺は、あんたのやり方を信じるよ」と力強く頷く者もいた。


 全員が納得できないことは百も承知だ。

 今は一人でも多く使い手を見て剣を作る鍛冶師が増えればそれでいい。


 俺は脇に置いておいた、紫色の波紋が走った欠片に触れた。

 欠けては何度も研ぎ直した跡がある。

 彼女はこの剣一本でどれほどのオークと戦ってきたんだろうか。


 俺は魔鉱石の塊を掴み上げると、火床の真ん中へくべ、風送りのふいごを引いた。


 周りに鍛冶師が集まって炉の様子を見ていた。

 使い手を見て剣を作ってくれと言った手前、彼らは手持無沙汰なんだろう。


 赤々と熱せられた石をハサミで掴み、金敷きの上に載せ、槌を振り下ろす。


 カン、カン。


「なあ、なんで割れないんだ?」


 若い鍛冶師が俺の手を覗き込んでいた。

 魔鉱石が割れない理由か。


「聞いててくださいね」


 カン――。


 少し時間をおいて。


 キン――。


「ほら、魔鉱石から返ってくる音が変わったでしょう」


 若い鍛冶師はぶんぶんと頭を縦に振っていた。


「音が変わったのは分かったけど何か違うのか?」

「冷えてくると、音が高くなるんですよ。で、そのまま叩き続けると割れてしまうわけです。ですから音が変わったらまた火床に戻すんです」


 俺は魔鉱石を炎の中に戻して、再びふいごをふいた。


「皆さんも見ているだけじゃなくてやってみてください」

「お、おう」


 カン、カン。


 鍛冶場には澄んだ打撃音がこだましていた。

 誰もが真剣な表情で炉に向き合っている。

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