第62話 魔鉱石は劣化が早い
「皆、聞いてくれ。片刃剣の製作者を連れてきた」
カン、カンと鳴り響いていた槌の音が止んだ。
鍛冶師たちが魔鉱石を打つ手を止め、一斉に俺の顔を見た。
「って、食堂の親父じゃねえか」
声を上げたのは店の常連の顔なじみだった。
「ええ、いつも料理を食べに来てくださってありがとうございます」
「いやはや驚いた。鍛冶をやっているとは聞いたことがあるが、まさか片刃剣の製作者だったとはな」
「片刃剣の製作者と言っても、俺は原型を作っただけですよ。あとはバラムさんとセシリアさんが改良を重ねて――」
バラムが俺の肩に手を置いて首を振っていた。
「ガルド、お前の剣に追いつこうと殿下も俺も試行錯誤を重ねたが届かなかったぞ」
バラムは壇上に上がると一本の片刃剣を持ち上げた。
あの湾曲した形状。突貫で作った簡素な柄。
間違いない。俺が打った片刃剣だ。
「皆も見ただろう。この剣の切れ味を」
「ああ、まさか鉄をああも容易に切り裂くとは思わなかった」
「手首への痛みもない。竜に化かされているのかと思ったぞ」
鍛冶師たちが口々に呟き、頷いていた。
鉄を斬ったのか。
俺は鉄を斬ることなんて想定して作っていなかったから刃こぼれしていないか心配だが……。
「それだけじゃない。この剣は魔鉱石を使ってないんだ」
「そうだ! 俺もそれが気になってたんだよ。あれってただの鋼なんだよな?」
「なんで魔鉱石使ったやつより切れ味がいいんだ?」
鍛冶師たちは自分たちで打っただろう片刃剣を抱えて、詰め寄ってきた。
あの鋼材はバラムの鍛冶場で借りた物だ。包丁に使う鋼とは少し違うとは思っていたが、まさか。
「ちょっとバラムさん」
俺は声を小さく落として、バラムを手招きした。
「なんだ?」
「バラムさんの所の鋼ってもしかしてかなり良い鋼だったりしますか」
バラムはきょとんとした顔で首をかしげていた。
俺はバラムの右手にある片刃剣を指さした。
「いや、その剣作ったときにバラムさんの所の鋼を借りたじゃないですか」
バラムは片刃剣を持ち上げて、少し見た後、再び俺へ視線を戻した。
「いや、俺の鍛冶場で使ってるのは剣用の普通の鋼だぞ。お前は普通の鋼から片刃剣を作ったんだ」
バラムが片刃剣を手渡してきた。
刃先に触れてみると分かる。かなり疲弊している。
鉄を斬ったとは言っていたが、そんな無理をさせていたら、そう長くないうちに剣がダメになってしまう。
「なあ、あんたが魔鉱石で剣を打ったらどうなっちまうんだ」
最前列にいた若い鍛冶師が自分の持っている片刃剣と俺の片刃剣を見比べながら、目を向けた。
「魔鉱石、ですか。あなたたちが作っているのは感染オークを斬るため剣なんですよね」
バラムも、周りの鍛冶師たちも頷いた。
「魔鉱石を使うと劣化が早くなるんですよ」
「どういうことだ?」
鍛冶師たちは眉を寄せていた。
なんと説明すればいいんだろうか。
俺も何度か包丁作りに魔鉱石を試したことがある。
だが肉や野菜の魔力を吸ってひび割れやすくなってしまう。
オークなんて大きな魔物を斬るならなおのことだろう。
「皆さん、魔鉱石で作った剣がどんな使われ方をしているのか、見たことはありますか……?」
「さあなぁ……でも飛ぶように売れるぞ。それだけよく切れるってことなんじゃないのか」
「ちょっといいかね?」
顔に深い皺が何本も走った鍛冶師が白髪交じりの髪を掻きながら手を挙げた。
「わしゃ修理専門でやっている鍛冶師だがね、魔鉱石の剣の修理依頼の方が鋼よりもはるかに多いんじゃ」
「そりゃよぉ、冒険者が魔鉱石の剣ばっか使ってるからじゃねえか?」
白髪交じりの鍛冶師は若い鍛冶師の顔を見て頷いた。
「わしも最初はそう思っておった。だがのう、顔を見れば分かるんじゃ。魔鉱石の剣を使っとる奴はひと月の間に何度も修理に来るんじゃよ」
若い鍛冶師が顎に手を当てて、ハッと声を上げた。
「魔鉱石の剣を買いに来る奴ら、まとめ買いしていくから仲間の分も一緒に買っていると思っていたが、まさかな」
俺は剣についてはあまり詳しくないが、魔鉱石を使うのが一般的なんだろうか。
自分の身を守る武器なのにすぐに壊れてしまうようでは安心できないだろう。
「皆さん、感染オークに対抗するために片刃剣を打っているんですよね」
「ああ」
バラムが壁に貼られた図面を見て頷いた。
そこには事細かに製造の手順が書かれていた。
使用する素材は魔鉱石。
「前線に行ってる方たちに、これを持たせてるんですか?」
「そうだ」




