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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第8章 オークの異変

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第53話 オーク餌やり体験

「むふっ、ガルドさんや、うちの者たちにすばらしい料理を振る舞ってくれてありがとう」

「すばらしいなんて、そんな大げさですよ。いい肉があったからこそです」

「ほほっ、相変わらず似ておりますなぁ」


 似ている……?


「ささ、ガルドさん、次の場所に向かいましょう」


 ゴドフリーは席を立つと、エッホエッホと小走りで回り込んできた。


「ふー、食後のいい運動になったわい」


 小屋を出て、向かいの大きな建物へ向かう。

 近づくにつれ、フガッ、フガッと何やら幼い鳴き声が聞こえてくる。


 見ると、まだ皮膚に皺も刻まれていないつるつるの小さなオークたちが、従業員からリンゴを与えられていた。


「ここで人に慣れさせるのですぞ。どれ、ガルドさんもいかがですかな」


 ゴドフリーは荷台に置いてあったリンゴを一掴みすると、俺の手のひらに乗せた。

 オークの餌やり体験といったところだろうか。

 これは貴重な経験だ。ありがたくやらせてもらおう。


 かがんでリンゴを前に出してみると、一体のちびオークがころがりながら近づいてきた。


 ゴロンゴロン――ガァ。


 リンゴに頭をぶつけてコテンと止まる。

 俺の手のひらに乗った赤い果実を見るなり、手ごと両手で押さえて齧りだした。

 手を噛まれるんじゃないかと思って引き抜こうとしたが、これが見かけによらず力が強い。

 がっしりと掴まれて離れようとしない。


 左手でちびオークの頭を押さえて引き離そうとしたとき、

 ペロリと柔らかい感触が右手に伝った。

 リンゴの果汁をなめとるように器用に舌を動かしている。

 くすぐったいな。


「ほっほ、なかなかの食いしん坊じゃったな。わしみたいじゃ」


 ゴドフリーが腹をバンと叩いて見せた。

 ちびオークもそれを真似するようにポンと腹を叩いた。


「はっは、この食いしん坊め、将来有望じゃな。ほれ、もっと食べて大きくなるんじゃよ」


 ゴドフリーがリンゴを手に持ってちびオークに手渡した。

 ちびオークはうまそうに齧り付いていた。


『食材だって、元は生きていたんだよ。料理人は命を分けてもらって包丁を握らせてもらっているんだ。だからね、美味しく作ってやらないと失礼っていうものさ』


 母の言葉を思い出した。


 俺もオークに失礼のないようにしないとな。


 その後も、オークジェネラルの訓練所や、育成施設を見学させてもらった。

 奥にある施設には、病気にかかったオークを治療する区画もあった。最近は流行り病が伝染しているらしく、寝たきりのオークが何体かいた。


 ゴドフリーは「大丈夫じゃぞ」とオーク一体一体の手を握って回っていた。


 日も落ちかけた頃、俺たちは馬車に乗って牧場を後にした。

 後の荷台には、お土産にと持たせてもらったオークキングとオークジェネラルの肉を積んである。

 ゴドフリーは太っ腹だ。


 ◇


 店に着く頃にはすっかり日が落ちていた。

 あたりはオークキングの皮膚のような真っ暗闇に包まれていた。


 店の前で馬車が止まると、街灯に照らされた人影が数名。

 見るとセシリアとお仲間たちだった。


「王女殿下、もう遅いですし帰りましょう」

「……」


 王女殿下……?

 男の声はたしかに俯いたセシリアに向かっていた。


「ひゅ、お、王女殿下! オ、オークですぞ! お下がりください」


 馬車を引く巨体を見た男が腰を抜かしてオークを指さしている。

 顔を上げたセシリアと目が合った。


「ガ、ガルドさん……それにオークスフォード辺境伯!?」

「これはこれは、王女殿下、ご機嫌麗しゅう」


 ゴドフリーが馬車から身を乗り出し、頭を下げている。

 確かに王女殿下と言った。

 俺がセシリアを見ると、彼女は目を逸らした。右手には細長い布包みを抱えている。


「立ち話もなんでしょうし、店の中にどうぞ」


 男たちも寒そうに身を縮こませていた。

 あったかいスープでも出そうか。


 カウンターに腰かけたセシリアは膝の上に置いた布包みをぎゅっと握りしめながら顔を上げた。


「ガルドさん、ごめんなさい。私、今まで黙っていたことがあるの……」


 今度は俺の目をしっかり見ていた。


「私、この国の王女なの」


 掠れた声だった。

 これまで客から向けられていた妙な視線。セシリアが来た時だけに変に硬くなる客の表情。

 何かあるとは思っていたが、まさか、本当に王女様だったとは。


 俺が返答に困って口をもごつかせていたとき、

 ぐぅぅ、と腹の虫が鳴った。

 セシリアだった。

 顔を真っ赤にしている。


 ご飯を食べることも忘れて待っていたのだろうか。


「ゴドフリーさんからいいオーク肉をもらっているので今から料理しますね」


 セシリアは耳まで真っ赤にしてコクリと頷いた。

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