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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第8章 オークの異変

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第52話 オーク牧場

 翌朝、店の前に立派な馬車が横付けされた。


「ささ、馬車へどうぞ」


 男が馬車の扉を開けて手招きした。

 オークが引く馬車とはこれいかにと思ったが変に突っ込まないでおいた。

 従者の手を借りながら馬車に乗り込む。


「そちら、お預かりしましょうか」


 従者の目は俺の手元にある布包みへ向いていた。中身は包丁だ。

 主人の近くに刃物を持った部外者を置いてはおけないということだろうか。


「ほっほ、気にするでない。ガルドさんは職人であるぞ」


 男の言葉を聞いた従者がすかさず姿勢を正し、頭を下げた。


「大変失礼いたしました」

「いえ、そんな」


 当たり前のことをしただけだろうに、こちらこそ申し訳ない。


「それでは出発しますぞ」


 男の合図とともに御者が手綱を引く。

 どんな荒い運転が待っているのかと身構えたが、思いのほか揺れず乗り心地は良かった。


 遠ざかっていく王都の街並みを眺めていると、男が「ほっほ」と咳払いした。


「そういえば、名乗っておらんかったね。わしはゴドフリー・オークスフォードじゃ」

「ゴドフリーさんですね、改めまして、ガルド・フェルナーです。よろしくお願いします」

「フェルナーとな……ほっほ」


 差し出されたゴドフリーの手を握り返した。分厚いタコがいくつもできていた。

 牧場に着くまで、オーク肉について語り合った。血抜きの手順、部位ごとの脂の乗り方。

 オークキングの養殖にも挑戦しているという話には聞き入ってしまった。


 気付けば、前方に大きな石の壁が迫っていた。

 壁は視界に捉えられない程遠くまで続いている。


「ほっほ、もうそろそろですな」


 鉄の門がゴゴゴと音を立てて持ち上がる。

 門を潜り抜けた先には、あたりいちめん小麦畑が広がっていった。

 農作業をしているオークもぽつぽつと見える。


「オーク以外にも、農作物を育てられてるんですね」

「ほっほ、あれはオークに食べさせるものですぞ」


 ゴドフリーは馬車が進むにつれて変わる景色を指さして、いろいろと教えてくれた。

 小麦の他に、リンゴや木の実、根菜類なども栽培しているらしい。

 食べさせるものによってオークの風味が変わるらしく、試行錯誤を重ねているという話だった。


 いくらか進むと大きな小屋が立ち並ぶ場所で馬車が止まった。

 町と言っても差支えのないような規模で、食料や建材を運ぶオークや、それを指示する従業員でにぎわっていた。


 ゴドフリーに案内されるがまま、大きめの小屋へ連れられる。

 内部は広く、厨房のようになっていた。


「「ようこそお越しくださいました」」


 白いエプロンを纏った従業員たちが、頭を下げて出迎えてくれた。


「ほっほ、ガルドさんに見せたいものがあってね、すぐに持ってこさせるから待っていておくれ」


 ゴドフリーが手を鳴らすと、奥から従業員が荷台を押して出てきた。

 上には黒く鈍い光を放つ肉塊が。


「こ、これは……」

「養殖オークキングじゃよ。まだまだうまくいっとらんがの」


 確かに、オークキングの特徴であるあの浮き出た血管がない。

 だが、皮膚の質感はオークジェネラルとは比べ物にならない程硬く、引き締まっている。


「切ってみても?」

「うむ」


 包みから出刃包丁を取り出して、刃を入れる。

 分厚い皮膚の中から網目状の脂肪が綺麗に散らばった赤身が顔を出す。

 セシリアが持ってきたオークキングと比べると幾分か荒いが、かなりの上質であることに間違いはない。


 ぐぎゅるるる、と背後から音が鳴った。

 ゴドフリーだった。


「さっそく始めましょうか」


 来たばかりだが、約束通り、美味しい料理を振る舞うとしよう。


 従業員たちもスープ作りや肉の切り分けを手伝ってくれた。

 オークの鉄板焼きを作る予定だったが、こんなにいい肉があるなら、やはりこの方法で作らなければ勿体ない。


 完成したオークキングのスープを並べていく。ゴドフリーの分は多めにしておいた。店で食べられない分、ここでいっぱい食べてほしい。


 調理器具を片付けているとゴドフリーがスープに手を付けていないことに気が付いた。

 どうしたんだろう、いつもならあんなに勢いよく飲み干していたのに。


「食べないんですか?」


 ゴドフリーは口元に垂れた涎を拭った。


「客人を差し置いて、わしが先に食べるわけにもいかんだろう」


 俺のことを待ってくれたのだろうか。


「ガルドさんの分です。どうぞ」


 従業員がゴドフリーの席の向かいにスープ皿を置いた。

 そうか、自分は料理を出す側とばかり思っていた。

 俺が来るまで待ってくれていたなんて、律儀な人だ。


「ありがとうございます」


 俺は席について周りを見渡した。

 こうやって大勢で食事を囲むのはいつぶりだろうか。


 肉を掬って口に入れる。

 舌で押しつぶすとほろほろと肉が崩れ出し、野菜の旨味を凝縮したスープが溢れ出した。


 うまい。

 いいオーク肉だ。

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