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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第8章 オークの異変

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第51話 オーク肉が足りない

 朝早くから、俺は肉屋の前でオーク肉と睨み合っていた。

 まな板に並べられた肉の塊を指で軽く押してみるが、弾力が弱く、表面の脂も少し黄ばんでいる。

 いくつか並んではいるが、どれもお世辞にも鮮度がいいとは言えなかった。


「店主、オーク肉はこれで全部か?」

「ああ、そうだな」


 参ったな。この状態のオーク肉をお客さんに出すわけにはいかない。

 あの舌の肥えたお客さんは今日も来てくれると言っていたし、がっかりさせるわけにはいかないんだが。


「いやぁ、ここ最近冒険者からのオークの納品が減ってたな。うちも商売あがったりだよ」

「何かあったんですか?」


 店主は両手を広げて首を振った。


「さあなぁ。聞いた話じゃあオークの数が減っているらしいんだが……」


 これは困った。うちの店の主力はオーク肉だから、これからも品薄な状況が続くとなると、何か対策を考えないとな。


「このオーク肉、いくらですか」

「いいのかい? あんまりおすすめはしないが」

「まだ鮮度が少しはましな部分がありますから」

「ありがてぇよ」


 オーク肉を包んでもらって市場を後にした。

 この塊からどれだけまともなものが取れるだろうか。

 昨日の小太りの男の顔を思い浮かべた。

 楽しみにしてくれているだろうに、申し訳ない。


 店の前へ行くと既に行列ができていた。昨日よりもさらに長い。

 先頭にはあの小太りの男が二人の騎士を侍らせて待っていた。


「やあ店主。今日も早いね」


 男の気さくな声に、肉を握る手に力が入った。


「どうしたのかね、そんな浮かない顔をして」


 しまった。顔に出ていたか。

 男の目線は、俺の顔ではなく仕入れたばかりのオーク肉に行っていた。


「君がこれを仕入れたのかい?」

「ええ、今日は品薄みたいでして」


 男は顎髭を撫でると、手をパンパンと鳴らした。すると、男の影から、黒い衣服で身を包んだ人がぬっと姿を現した。

 どこから出てきたんだ。

 男は黒装束の耳元へ口を寄せ、何かを呟いていた。


「御意」


 低い声だけを残して、黒装束はすっと姿を消した。


 男は俺の元へ近寄ると肩をポンポンと叩いた。


「おっほん、今日の料理も楽しみにしてるよ」


 なんだったんだろうか。

 とにかく、仕込みを終わらせよう。


 スープを煮込み、いつもの時間に暖簾を掲げる。

 扉を開けると同時に小太りの男が入ってきて、昨日と同じカウンター席に着く。


「店主、オークキングのスープ三人前。今日はわし一人ではなく連れの分を頼む。それとオーク肉の鉄板焼き五皿」

「はいよ」


 熱々のスープを三人の前に運ぶ。騎士は兜を外し、一礼してからスープに口をつけていた。


 俺は今朝仕入れたオーク肉を取り出し、包丁を握る。

 変色した部分や水っぽくなった筋をそぎ落とし、不格好な肉の塊が切り出されていく。


「ほっほ、いい目をもってるね。店主」


 スープ皿を空にした男が頬杖をついて肉を眺めていた。


「料理人ですから」


 そんな話をしていると、男の背後にまた黒装束が立っているではないか。


「準備が整いました」

「むふ、店主。君に見せたいものがあるのだけど、少し外に来てくれるかい」


 呼び止める間もなく、男は入口まで歩いて行ってしまった。

 仕込みの最中なんだが……。

 無下にするわけにもいかず、包丁を置いて男の後を追った。


 扉を開けると尻もちをついてしまった。

 通りの真ん中に人間の倍近い巨体のオークが立っていた。

 その後ろに縄で繋がれた荷台には、今にもこぼれ落ちそうなほどのオーク肉がこれでもかと積み上げられている。


「間に合ってよかったわい」


 なんでこんな町中にオークが。

 冒険者たちも剣を抜いて臨戦態勢に入っている。


「驚かせてすまないね、これは養殖オークだから安心したまえ」


 男は呑気な声を出しながら、オークの膝をポンポンと叩いて見せた。

 オークは大人しく立ったまま、こちらを見下ろしている。

 養殖オークとはなんだろうか。初めて聞いた。


「むふふ、店主。オーク肉が足りなくて困っているのだろう」


 男は腹を叩きながら、積みあがった肉を指さした。


「お代は全部で金貨五枚でどうかね。特別価格だ」


 安すぎる。こちらとしてはありがたい話だが。

 これだけの量、普通ならもっと跳ね上がるはずだ。


「いいんですか? そんな破格で」

「このオークは君にこそふさわしい」

「ありがとうございます」


 男の手の者たちによって、肉が店内に運び込まれていく。


 俺はさっそく、肉の塊をまな板において状態を確かめる。

 それにしてもこのオーク肉、臭みが抑えられている。

 鮮度もかなり良く、サシの入り具合も目を見張るものがある。


「気付いたかね。わしのところではオークに食べさせるものに気を使っていてね、獣臭さが抑えられてるんだ」

「ええ、こんなオーク肉、初めてです」

「ほっほ、気に入ってもらえてうれしいよ。どうだい、今度わしの牧場にオークを見に来ないか?」


 オーク牧場。

 一体どんな餌を与えれば、こんな見事な肉質に育つのか。


「いいんですか?」

「もちろんだとも、明日の定休日なんてどうだい?」

「是非お願いします」


 そう言いながら、届いたばかりのオーク肉を切り分け、鉄板で焼き始めた。ジュ―という音と共にオークとは思えない、木の実をいぶしたような芳醇な香りが広がる。

 出来上がった鉄板焼きを男の前へ運んだ。


「もしよければ、うちの牧場の従業員にもこれを振る舞ってもらえないだろうかね。調理器具はこちらで用意するから」

「ええ、喜んで。美味しい物を食べてもらえるならお安い御用です」


 明日が楽しみだ。

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