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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第7章 王女様?

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第48話 こんないいオーク肉に出会えるとは……

 オークキングの死体を前に、セシリアは解体刀の柄を握り直した。

 刃先を皮膚の表面へ当て、引き切ろうと力を込める。


 ――キン。


 乾いた金属音が響いた。刃先が滑り、分厚い皮膚には細い筋すらつかない。

 角度を変え、刃の元近くを使って押し込んでみても。


 ――キンッ。


 やはり刃は弾かれた。


「うそ……」


 刃こぼれこそ起こしていないが、肉へ入っていく気配が全くない。


 指先でオークキングの皮膚を押してみると、鉄板でも叩いているような感触が返ってきた。力任せに叩き切れば刃が砕ける。セシリアは手首を引いて刃を収めた。


 そこへ、オークの処理を終えた騎士が近づいてきた。後ろの荷台には、解体されて布で包まれたオーク肉が積み上がっている。


「殿下、お手伝いいたしましょうか」


 セシリアは再びオークキングに目を落とす。


 できることなら、このオークキングも自分の手で最後まで捌き切り、ガルドに見せたかった。「自分でここまでできました」と。


 ただ、今はそうもいっていられない。


「……ええ、お願いするわ」

「では」


 騎士は腰の剣を抜くと、オークキングの右足の関節へと狙いを定め、そのまま上段から振り下ろす。


 ――ガキン!


 皮膚に薄い傷がついた程度。

 それどころか、衝撃に耐え切れなくなった刃先が半ばから折れ飛び、乾いた音を立てて草むらへ転がった。


 騎士は手元に残った無残な折れ身を見ると、慌てて振り返った。


「で、殿下、お怪我は!」

「大丈夫よ。それにしても、想像以上ね」


 セシリアは屈み込むと、手を軽く握り指の関節でオークキングの腹を叩いてみた。

 コンコンと、乾燥した木材のような音が返ってくる。


 後ろで見守っていた研究者の一人が、恐る恐る右手を挙げた。


「殿下、でしたら……先ほどお使いになられた片刃剣を使われてはいかがでしょうか。あれならば、この皮膚も易々と断てるかと」

「駄目よ」


 即答。


「な、なぜですか。あれほど見事に斬っておられたではありませんか」

「これは解体するための剣じゃないわ」


 セシリアは布に包んだ片刃剣へ手を触れた。


「ガルドさんが言っていたの。用途に応じて、刃は使い分けないといけないって。私はこの剣を肉を捌くために作ったわけじゃないし、ガルドさんも多分同じ……」


「ですが……これでは持ち帰ることも叶いません」

「丸ごと運ぶわ」

「えっ、丸ごと、ですか!?」


 大きい。だが、オークジェネラルと比べるといくらか小ぶりで、荷台にも無理をすれば収まりそうだ。


「だって、この片刃剣で解体したなんて知られたら、ガルドさんに怒られちゃうもの」

「そ、そうでしょうか……ガルド殿がそのようなことで腹を立てるとは思えませんが……」

「私の方が、ガルドさんと話したことが多いのよ」


 研究者は口をつぐんだ。


「それじゃあ、あなたたちはこっちを持って」


 オークキングを載せた荷台の縄を掴むと、研究者たちの前へやった。


「殿下、これは……?」

「私たちで運ぶのよ。王宮の馬車を使ったら、ガルドさんに届ける前に大騒ぎになってしまうでしょう?」

「は、はあ……!?」


 セシリアは他の荷台を指さしながらテキパキと指示を出していく。


「残りのオークの肉は、先に王宮へ運んでおいて頂戴。全部は持って行けないから」

「御意!」


 騎士たちは荷台を馬につなぎ、手綱を引いて街道を王都へ向かって駆け出していった。


「あ、ああっ、置いていかないでください~~!」


 走り去る荷台の土埃を見送りながら、細身の研究者がその場に膝をついた。


「さあ、私たちも行くわよ」


 セシリアが荷台の太い縄を肩にかけ、踏み込んだ。


 ギギギ、と車軸が重い音を立てて回り始める。


 ◇


 日も落ちかけて、店の前に出来た行列が通りまで伸び始めた頃だった。


「王女殿下!? 王女殿下じゃないか……!」

「あ、あれはオーク……オークキング!?」


 なにやら表通りが騒がしい。またレオンが来たのだろうか。


 暖簾をくぐって外の様子を見ると、口元に人差し指を立てるセシリアがいた。その背後には、泥と汗にまみれて今にも倒れそうな男たちが数人。


 セシリアの顔を見て、金貨袋のことを思い出した俺は、すぐに厨房へ戻って引き出しを開いた。

 あの疲れた感じ、かなり遠くから急いで戻ってきたのだろうか。

 こうしちゃいられない。早く渡さないと。


「セシリアさん、よかった来てくれて」


 小走りでセシリアの方へ向かう。


「これ、忘れものですよ」


 セシリアは不思議そうな顔で受け取った布袋を覗き込んだ。


「ガルドさん、これはお代としてお渡ししたものだけど……」

「え?」


 俺の見間違いだっただろうか。確かに金貨五枚が入ってたはず。

 押し返された、布袋の開いた口を見る。

 やっぱり金貨じゃないか。


「いや、うちの料理を全員分あわせても、銀貨数枚で収まりますよ。金貨五枚なんて多すぎます」

「勉強代です。いろいろ教えていただいたから」

「べ、勉強代!? そんなメニューはうちにはありませんよ」


 いや、そんなことより、

 セシリアの後ろにある物が気になって仕方がない。

 あの黒ずんだ皮膚。オークジェネラル特有なものだが、あの浮き上がった血管。討伐されてから時間が経ったのか、濁った色になっているが……。

 あれは間違いなく、オークキング。

 欲しい。


「セ、セシリアさん、あのオーク肉は……」


 人差し指が震えていた。

 あれを調理したらどんな美味い肉になるだろうか。


 セシリアが目を輝かせて両手を広げた。


「そうよ。ガルドさん、あなたに捌いてほしくて持って来たの」


 え、俺に?


「いいんですか!? いや、しかしオークキング……いくら支払えば譲ってもらえるのか……」

「お代なんていらないわ」


 信じられない。俺はセシリアの肩を掴んでいた。


「オ、オークキングですよ! そんなにお目にかかれるもんじゃあない! それをタダだなんて……」


 セシリアは少し頬を赤らめると、目を逸らした。


「代わりに……これで美味しい料理を作ってほしいの」

「任せてください」


 二つ返事で引き受けた。


 荷台に載ったオークキングに駆け寄り、その鋼鉄のような皮膚に触れる。

 やはり硬い。だが、奥には確かな肉の弾力がある。

 早速、解体用の出刃包丁を取り出し、刃を入れる。


「おっちゃんと王女様、どういう関係なんだ……?」

「しーっ、お忍びなんだから黙ってろって」


 なにやらざわついていたが、耳に入ってこない。


 包丁の刃先で皮膚の感触を確かめる。

 後脚の根元と装甲板が重なり合う僅かな隙間へ、包丁の先を滑り込ませた。

 角度を調整し、刃の重みと手首の力を以てして筋を断つ。


 ――スッ。


 包丁が奥まで入り込み、骨の関節を滑らかにすり抜けた。

 軽く手前へ引くと、分厚い肉塊が綺麗な断面を見せて倒れ込む。

 見事なサシの入った、深く澄んだ赤身の肉が顔を出した。


 こいつはいい。

 肉の締まり具合、脂の質、どれをとってもいつものオーク肉とは比べ物にならない。


 こんないいオーク肉に出会えるとは……セシリアに感謝しないとな。


 俺は出刃包丁を握り直し、次の部位へと刃先を向けた。

 料理するのが待ち遠しい。

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