第47話 オーク狩りに行こう
王都の近郊、深い樹海に覆われた狩場。
木々の隙間から時折、オークの濁った咆哮が届いていた。
出来上がったばかりの二本の片刃剣に、専用の鞘を用意する時間はなかった。他の鞘を使おうにもその湾曲した刀身に合う物は見つからなかった。
刃先から柄まで、厚手の布を固く巻きつけ、それを革紐で縛り上げて固定している。
「今日の聖剣舞踊の練習はあのオークたちに決めたわ」
セシリアが前方を指さすと、脇を歩く騎士は腰の剣に目をやった。
「はっ。……しかし殿下、本日は二本とも片刃の剣で舞われるのですな」
「ええ。今日はこの二本で練習をしようと思うの。試し斬りも兼ねてね」
木々を押し倒しながらオークの群れが迫ってくる。
太いこん棒を持つ者もいれば、引き抜いた大木をそのまま担ぐ者もいる。
「かなり群れていますな。十数頭……奥にはもう数頭いそうです」
革紐を解き、二本の片刃剣を構えた。
左は自作の片刃剣。
右はガルドの片刃剣。
一歩前へ踏み込む。動きに合わせて、白い布が羽衣のように空を舞う。
足裏で地面を滑らせるように踏み込み、身体を滑らかに回転させる。剣先が水面に波紋を広げるように残像を描く。
突進してきた先頭のオークに対し、左手に握った片刃剣を振るう。
ザクッ。
柄越しに伝わってくる、肉を断つ感触。骨ごと断ち切り、オークが地に倒れ込む。
「……悪くないわ」
腕も痺れない。刃も欠けない。
そのまま回転の勢いを利用して、踏み込んできた二頭目の撃ち降ろしを交わしながら、右手の片刃剣を閃かせる。
サクッ。
同じものを斬ったとは思えなかった。
いや、斬ったのだろうか。
右手と左手の感触の違いに足がもつれる。
横目でオークを見ると水平に斬られた上半身がずり落ちていた。
左脚で地面を蹴る。体勢を立て直し、次の標的へ間合いを詰める。
右から左へ、左から右へ。二本の片刃剣が交互に描く円の軌道に、立ち塞がるオークたちが次々と巻き込まれていく。
一歩引いて突進を流し、舞うように回転しながら背後の敵を斬り伏せる。
まさに、舞踊。
幾頭ものオークが咆哮を上げる間もなく崩れ落ちていった。
騎士が手拭いを持って歩み寄る。
「殿下、お上手ですよ」
「狩りは王族の嗜みですもの」
セシリアの周りの地面にはオークの血で波紋ができていた。
騎士が返り血を拭こうとしたその時。
ズシン――。
樹海の奥から響く、地面を揺らすような重い足音。
樹木を薙ぎ倒して現れたのはオークキング。黒ずんだ皮膚に赤い血管が浮かび上がり、体から赤い蒸気が噴き出している。オークジェネラルの変異種。
騎士たちが一斉に剣を構える。
「殿下、お下がりを」
オークキングが大きく跳びあがるとセシリアに向かって巨大な腕を振り下ろす。
セシリアは動じることなく右に大きく跳ね、攻撃を交わすと、すれ違いざま、左手の剣でその脇腹を斬りつける。
手応えはある。分厚い皮膚を破り、肉の深くまで刃は届いた。
続けざまに逆手に持った右手の剣をオークキングの心臓へ突き刺す。
スッと吸い込まれるように、刃が背へ通り抜ける。
剣を引き抜くと同時にオークキングの心臓がえぐり取れ、血しぶきを上げた。
セシリアは立ち止まり、左手を見た。
「……やっぱり、まだ全然届かないわね」
セシリアは見学に来ていた研究者たちへ顔を向け、笑った。
「ガルドさんには、勝てないや」
剣を収めた騎士たちが駆け寄ってくる。
「殿下! ご無事で何よりです! 見事な狩りでございました」
「ありがとう」
立ち並ぶオークの死骸を見渡したセシリアは、刀身の血を布で拭いながら、研究者たちを見た。
「ねえ……ガルドさんにこのオーク肉持っていったら喜んでくれるかしら」
「名案でございます殿下!」
「そうと決まればすぐにでも解体を始めましょう!」
セシリアは刀身を布で包み直すと、解体刀を取り出してオークキングへ突き立てた。
「ふふ、ガルドさん、どんな料理にしてくれるかしら」




