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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第6章 偽聖剣

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第43話 熱いうちにどうぞ

 カラン、と高い鈴の音が店内に響いた。


 まな板の上のオーク肉に包丁を当てたまま、入口へ視線をやる。


「いらっしゃい――ああ、バラムさん。また来たんですか」


 暖簾をくぐってきたのは、見慣れた顔だった。そのすぐ後ろに、品のある佇まいのセシリアと、どこか落ち着かない様子の男たちが続いている。


「セシリアさんも。今日は何にします?」

「ええ。何があるかしら?」


 今日はずいぶん人数が多いな。

 連れの男たちは、どこか立ち振る舞いが硬い。そのうちの若い男が、セシリアの傍らに寄り添いながら口を開きかけた。


「殿――」


 トン、トン。


 すぐ隣に並んだバラムが、若い男の肩を二度、軽やかに叩いた。

 若い男は途中で言葉を飲み込み、喉を鳴らす。


「……セシリアさん。こちらへ」

「ええ、ありがとう」


 カウンターの椅子へ腰を下ろすセシリアの横で、若い男は額の汗を指先で拭った。


「今日はいいオークのバラ肉が入ってるんですよ。厚切りにして煮込みにするつもりですが、どうです?」

「いただくわ」

「それじゃあ、人数分用意しますね」


 鍋に火をかけ、切り分けた肉と香草を入れて匙を動かした。


 連れの男たちは、席には着いたものの、落ち着きのない様子で周りを見ていた。

 バラムとセシリアはというと、鍋から立ち上る湯気を眺めて待っていた。


 煮込みが煮立つまでの間、器を並べながら、バラムの顔を見た。


「そういえば、バラムさん」

「なんだ?」

「前に俺の包丁を見て、聖剣に似てるって言ってましたよね」


 バラムがすこし前かがみになる。


「ああ」

「王都の市場で売ってる聖剣包丁っていうのがあるでしょう? 見た目が俺の包丁と似てましてね、あれのことだったんですよね?」


「ん?」


 聞こえなかったのだろうか。


「いや、あのですね、聖剣包丁――」


「……違う」

「え?」


 バラムはカウンターに両手をついて身を乗り出した。


「俺が言ったのは、あの流行りの包丁のことじゃない。お前が打った、その包丁そのもののことだ」

「俺の包丁?」

「王都の職人に話すと言ったのも、あの流行品を広めるためではない。お前の技術を見せるためだ」


 そうだったのか。

 最近は聖剣と言う言葉をよく聞くからややこしくて仕方がない。


「なるほど……。じゃあ、俺の包丁をあの噂の聖剣包丁だと思っていたわけじゃないんですね」

「当たり前だろう」

「それならよかった。すみませんね、変な事言ってしまって」


 皿に盛り付けたオーク肉の煮込みを運び、テーブルへ並べる。

 肉の煮汁とハーブが混ざり合った香ばしい匂いが立ち上り、連れの男たちが喉を鳴らした。


「熱いうちにどうぞ」


 厨房へ戻り、奥の作業台から出刃包丁を取り出し、次に仕込む肉の筋と骨の処理を始める。


 研ぎ澄まされた刃を布巾で拭い、光にかざして研ぎ目を確認する。


 視線を上げるとセシリアがこちらを見ていることに気が付いた。


「ガルドさん」

「はい?」

「その包丁……やっぱり、似ています」


 セシリアは身を乗り出して包丁に顔を近づける。


「似ている?」

「ガルドさんに作っていただいた片刃剣と似てるんです、今こうして間近で見ると……よく分かります」


 あの片刃剣か。確かに包丁を作る感覚で叩いたから、似ていると感じるのも無理はないだろう。


 連れの男の一人も身を乗り出し、出刃包丁を覗き込んできた。

 皆してそんなに刃物に顔を近づけて、怖くないんだろうか。

 男は羽ペンを握ったまま、出刃の刀身を何度も角度を変えては眺めている。


「……確かに」

「ガルドさん、どうしてこのような形に仕上げているのですか?」


 男の問いに、出刃の背を指で軽く叩いて見せた。


「硬い骨に刃を当てても負けないように、背側には厚みを残しているんです。それに、刃を引きながら切るなら、このくらい反りがあった方が滑らかに刃が通りますからね」


 セシリアが重ねて尋ねてきた。


「あの片刃剣も、同じ考え方で作ったのですか?」

「そうですね」


 俺は頷いた。


「包丁を作るときのやり方を、そのまま剣に使ってみたんですよ」


 連れの男が手帳を開き、出刃の刀身と自分の手元を何度も往復させている。


「……つまり、剣と包丁を、同じものとして作っていると?」


 俺は出刃を作業台の脇へ置き、首を傾げた。


「同じというか……どちらも切るための刃物ですからねぇ。切るものが肉か、それ以外の硬いものかの違いでしかありませんよ」


 セシリアにいきなり剣を作ってくれと頼まれた時は正直驚いたが、自分でもいい物が作れたと思っている。


 尋ねてきた男は手帳を握りしめていた。


「……あの、失礼でなければ……その包丁を見せていただいても?」

「構いませんよ。どうぞ」


 出刃の柄を向けて差し出しつつ、俺は尋ねた。

 せっかくの料理が冷めてしまうというのに、さっきから誰も匙を動かそうとせず、出刃ばかりを見つめている。


「ただ、料理に使う包丁なんて、見ていてそんなに面白いものですかね?」

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