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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第6章 偽聖剣

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第38話 王都の市場と流行りもの

 バラムの工房を後にした俺は、そのまま王都の大通りへと向かって歩を進めていた。


 せっかくの休みだ。

 普段は仕入れない食材でも探してみるか。

 新しい食材を見れば献立も捗る。


 活気に溢れる王都の市場には、瑞々しい根菜や、見慣れぬ果物、水揚げされたばかりの川魚などが並んでいた。


 その中で、肉屋の店頭に並べられた見事な肉のかたまりに目が留まった。


「ほう……このオークのバラ肉か。良い脂の乗り方をしているな」


 部位を確かめ、切り口の繊維を見る。

 この脂の入り具合、仕入れておかねば損というものだ。


 酢や果実の酸味を効かせたタレで煮込むのも面白そうだ。

 臭み消しに強めの香草を散らし、根菜と一緒にじっくり弱火で煮込めば、肉の旨味がスープに溶け出して柔らかな食感になるはずだ。


 少し厚めに切り分けて表面だけを軽く炙り、食感を残したまま出すのも捨てがたい。


 肉を見ているだけで、次々と料理が浮かんでくる。


「……よし、これを少し分けてもらうか」


 肉の仕込みを頭の中で楽しんでいると、横から声がかかった。


「おう、おっちゃん。料理人だろ?」


 振り返ると、手押し車に雑多な刃物や調理道具を並べた小柄な商人が、ニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。


「ええ、そうですよ」

「やっぱりな。さっきから肉の見方が料理人そのものだったからよ。その目は素人じゃねえ」


 商人は鼻を鳴らし、自分の商品棚へと手招きした。


「あんたにいいものがあるんだ。見ていかないか?」

「ほう?」


 食材だろうか。

 楽しみだ。


「くく、料理人なら生唾を飲み込むような……極上の道具だ」


 商人は周囲を少し警戒するように見回してから、布で覆われた長箱を取り出した。


「最近、王都で話題になってる聖剣包丁って知ってるか?」

「……聖剣ですか」


 最近は、どこも聖剣というのが流行っているのだろうか。

 流行り廃りには疎い俺だが、立て続けに同じ言葉を聞くと、世間の流行というものを少し意識させられる。


「まあな。だが、ただの流行りものじゃねえぞ。これを見てみな」


 商人が恭しく布をめくる。

 中に収められていたのは、一丁の包丁だった。


 刃の厚み、全体の形状、柄の付け方。

 なんとなく、俺の店で普段使っている包丁と全体の輪郭が似ている気がする。


「どうだ? 王都の大商会が囲い込んでる伝説の職人が打ったって噂の逸品だ。『聖剣みたいに切れる』って大評判でな。どんな固い肉もスッと刃が入るらしい。今なら特別に、金貨三枚で譲ってやるぜ」


 俺は断りを入れ、その包丁を手に取らせてもらった。


 重みとバランスを確かめる。

 丁寧な仕事だ。

 刃も悪くない。

 ただ、俺ならこうは作らないという感触だった。


「どうだ、おっちゃん? 試し斬りしてみるか? そこのカブを落としてみてもいいぞ」

「いえ。包丁は間に合っているので、結構です」


 俺は包丁をそっと箱に戻した。


「そうかい。まあ、冷やかしなら仕方ねえな」


 商人は少しつまらなさそうに布を被せ直した。


 商人にお礼を言ってその場を離れながら、俺はふとバラムの事を思い出していた。


 そういえば……バラムが俺の包丁を見たとき、『まるで聖剣みたいだ』と言っていたことがあった。


 今見た包丁と、俺の包丁。

 確かに、形が少し似ている。


 バラムは鍛冶職人だから、こういう流行りの包丁を知っていたのだろう。

 だから俺の包丁を見たときにも、その聖剣包丁というやつを連想して、あんな例えを出したんだろうか。


 今度バラムに会ったら、ちゃんと説明しておかないとな。

 変な勘違いをさせたままなのは、なんだか決まりが悪い。


 そんなことを考えながら、オーク肉を買って市場の奥へと歩みを進めた。


 大通りを進むにつれて、街の空気がどこか落ち着かない。


 甲冑を着た騎士たちの姿が、普段より明らかに多い。

 二人組、三人組で街路を巡回し、通りかかる商人や通行人に視線を光らせている。


「……おい、噂は本当なのか?」

「ああ、王都の鍛冶街の方でも騒ぎになってるらしいぜ」

「本物が出回ったって話は……」


 露店の陰で、商人たちが声をひそめて話し合っているのが耳に入った。


 すれ違う人々の会話の中にも、ちらほらと「聖剣」という言葉が混ざっている。


 今日はやけに聖剣という言葉を耳にする。

 何か大きな催しでもあるのだろうか。


 オーク肉の包みを抱え直し、俺は王都の門へ向かって歩き出した。


 このオーク肉をどう調理するか、楽しみだ。

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