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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第5章 聖剣職人の正体

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第35話 その刃、必要ですか?

「剣、ですか……?」

「ええ」


「俺は包丁職人ですよ。剣なんて作ったことも叩いたこともありません」


 鍛冶屋なら何でも打てると思われたら困る。

 包丁と剣では、打つ工程も目的もまるで別物だ。

 セシリアは少しも引かずに俺を見返してきた。


「知っているわ。でも、あなたが仕立てた包丁を見たの。形や硬さだけじゃなく、使う人間に合わせて作られている。……私が作ってきた剣には、それが足りないの」


「セシリアさんも鍛冶師なんですよね? だったら自分で作った方が早いんじゃないですか」

「自分で作ったからこそ、分かるのよ」


 セシリアはそう言って、少しだけ言葉を探すように黙った。


「形も、重さも、硬さも……何度も調整したわ。記録に残っているものも調べたし、実際に振ってみてもいる」


 セシリアはおういって手元に視線を落とした。


「でも……何かが違うの」

「違う?」

「ええ。ちゃんとした剣にはなっている。けれど、私が握っても、どうにも自分の手の先まで馴染んでこないの」


 セシリアは苦笑した。


「何度作り直しても、同じなのよ。悪くはない。でも、これでいいとも思えない」


 顔を上げて俺を見た。


「だから、一度あなたに作ってほしいの」


 真面目な目だった。

 俺は少し考え、顎を擦った。


「……そうですね。何も知らんままじゃ話になりませんからね。……まずは――」

「作ってくださるんですか!?」


 セシリアが身を乗り出して俺の手を握ってきた。


「まずは、剣がどんな使われ方をしているのか、見せてもらえませんか?」

「使われ方……ですか」

「ええ。包丁を作る時も同じです。誰がどんな風に刃を動かすのかを見ないと、何も作れませんから」


 包丁も、魚を捌く者と肉を切り分ける者では刃の付け方が変わる。

 剣も同じ道具であるなら、使い手を見ずに打つことなどできない。


「分かりました。いつなら都合がいいかしら?」

「そうですね……店がありますから。次の定休日、三日後なら動けますよ」

「なら、俺の工房を使えばいい」


 これまで黙って聞いていたバラムが、口を挟んだ。


「炉も道具も揃ってる。好きに使ってくれ」

「いいんですか?」

「剣を打つんだろう?」

「助かります」

「礼はいいから剣を見せてくれ」


 定休日に合わせることで話がまとまり、二人は店をあとにした。


 ◇


 三日後の朝、俺はバラムの工房を訪れた。


 敷地内にある広い中庭へ案内されると、セシリアは既に準備を整えて待っていた。

 革の胸当てを身につけ、手には一本の直剣が握られている。


「……セシリアさん。ひとつ聞いていいですか?」


 俺は作業台の脇に立ち、尋ねた。


「何かしら?」

「どうして自分で剣を振るんです? 鍛冶師なら、剣士に振らせて感想を聞けばいいんじゃないですか」

「作った本人が使ってみなければ、本当の感触は分からないわ」


 セシリアは柄を握り直した。


「もちろん、私は騎士のような剣術の達人じゃない。けれど、自分が打った鋼がどう重みを受け止め、どう空気を切るのかは、自分の腕で確かめたいの」

「なるほど」


 俺だって、自分で打った包丁はまず自分の手で試す。

 職人として筋の通った考え方だ。


「よし、じゃあ俺は見てますね」


 セシリアが頷き、中庭の中央に立った。


 スッと息を吐き、剣を構える。


 ヒュッ、と澄んだ風切り音が響く。


 上段からの振り下ろし、横への払い、斜めからの斬り下げ。

 剣術について詳しくはないが綺麗な動きだ。


 俺は腕を組み、セシリアの動きをじっと観察した。


 彼女の手元と、刃が空気を切り裂く向き。


 何度も素振りを繰り返し、剣を返すセシリアの動作を目で追う。


(……ふむ)


 しばらく眺めたあと、俺は声をかけた。


「セシリアさん、少しいいですか?」


 セシリアは肩を上下させ、薄く汗を浮かべながら剣を引いた。


「どう……かしら?」

「ひとつ気になったんですが」


 俺はセシリアの手元を指差した。


「反対側の刃って、使わないんですか?」


 セシリアが瞬きをした。


「……え?」

「さっきから見てましたけど、あなた、ほとんど表側の刃だけで斬ってますよね。剣を返す時も、手首を捻って同じ側の刃を相手に向けている」


 セシリアは己の手に握られた剣を見下ろし、次はゆっくりと素振りの軌道をなぞった。


 上から下へ振り下ろし、そのまま返して横へ払う。

 刃の表側しか空気を切っていない。

 背側の刃を使って斬り上げる動作をしてみせたが、肩が大きく開き、動きにわずかな引っかかりが生じた。


「……本当だわ。意識していなかったけれど、私は反対側の刃をほとんど使っていない」

「だったら」


 俺はセシリアの持つ剣の、背側の刃を指で突いた。


「この背の刃、いらないんじゃないですか?」


 バラムが眉間にシワを寄せ、一歩踏み出してきた。


「ガルド殿、両刃なのは戦の道具として当然だ。どちらの側からでも攻撃でき、切り返しもしやすい。大人数の兵士が扱う道具として、両刃以上に合理的な形はない」

「そうなんですか」


 バラムの説明に俺は頷いた。


「大勢の兵士が使うなら、両刃の方が便利なんですね」

「そうだ」

「でも……セシリアさんは、さっきから片側しか使ってませんよね」

「そうね」


 セシリアが自分の手元を見つめながら答えた。


「だったら、その人が使わない刃まで付けておく必要があるんでしょうか? 使わない刃をなくしたら、もっと別の形にできるんじゃないですか?」

「別の……形……」


 セシリアがつぶやく。


 バラムが腕を組み、重々しい声で言葉を継いだ。


「片刃の剣自体は、昔にも試されたことがある。だが、軍の剣術や使い勝手においては、結局は両刃が選ばれて廃れていったのだ」


「大勢で使うならそうなんでしょうね。ですが、いま目の前で振っているのはセシリアさん一人ですし。やってみないと分かりませんから、一度、片側だけに刃をつけた剣を試してみませんか?」

「……ええ」


 セシリアが強く頷いた。


「やってみましょう、ガルドさん。片刃の剣を」

「よし。じゃあ早速叩いてみましょう」

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