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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第5章 聖剣職人の正体

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第34話 剣を作ってもらうことはできるかしら?

 夜も更け、店内のお客もまばらになってきた頃だった。

 そろそろ暖簾を引き込もうかとしていたところへ、カランと鈴が鳴った。


 入ってきたのは、セシリアとバラムだ。


「いらっしゃい。ちょうど仕舞おうかと思ってたところだよ」

「今日は遅くなってしまったわね」


 二人をカウンター席へ案内する。

 今日は細長い布袋を持ってきていない。

 てっきり剣でも見せにくるのかと思っていたが、そうでもないみたいだ。

 俺は特に深く追求せず、残っていたオーク肉の鉄板焼きとパンを出した。


「今日はこれくらいしか出せないけどいいかい?」

「ええ」

「ありがたくいただく」


 二人とも無言で料理を口に運んでいる。

 バラムは美味そうに肉を噛み締め、セシリアはというと相変わらず包丁を眺めていた。


 食後、茶を差し出すと、セシリアが杯を置いて俺を見た。


「ガルドさん。少し、あなたの仕事を見せていただくことはできないかしら?」

「仕事……ですか?」


 今仕事をしている真っ只中じゃないか。


「ええ。あなたが道具に触れているところを、もう少し近くで見たいの」

「ああ」


 なるほど。

 包丁を打つ現場に興味があるということだったか。

 だが、ここには火炉も金床もない。


「残念ですが、ここには炉がないのでね。新しい包丁を打つのは、遠くの鍛冶場を借りられる時だけなんですよ。今お見せできるのは、手入れくらいですが」

「手入れで構わないわ」


 セシリアが食い気味に頷いた。


 俺は二人を促し、厨房の奥にある勝手口から裏手へ出た。

 軒下には小さな木製の作業台と、水桶、そして数種類の砥石が並んでいる。

 いつも魔物を解体したあとや、仕込みの合間に包丁の手入れをする場所だ。


 壁に掛けたランタンを外し、作業台の脇に置いた。

 橙色の灯りが砥石と手元を照らし出す。


「ここで研いでるんです」


 俺は作業台の前に腰を下ろした。

 木桶から汲んだ水を砥石に回しかけ、包丁を手に持った。


 セシリアは俺の真横に膝を折った。

 口を開く様子もなく、ただこちらの両手に視線を注いでいる。


 別に見られて困るような怪しい技術はないんだが……。

 俺はいつもの手順で、砥石の表面に刃を当てた。


 シャッ、シャッ、シャッ。


 夜の静けさの中、水気を含んだ石と鋼が擦れ合う音が響く。


 刃の角度を指先で保ちながら、均等に滑らせる。

 数回研いだところで手を止め、包丁を持ち上げた。

 親指の腹で刃先を軽く撫で、ランタンの光にかざして研ぎ幅を見る。


「……今、何を確認したの?」


 セシリアが口を開いた。


「ん? いや、刃の当たり方が少し変だったものでね。中央から先端にかけて、ほんのわずかに角度が寝ていたんです」

「見て、触っただけで分かったの?」

「使っていれば手で分かりますよ。研ぎすぎると、今度は食材に刃が入る時の感覚が粗くなりますから」


 俺は再び包丁を砥石に当て、かるく二、三回だけ滑らせた。

 水気を布で拭き取り、光を滑らせて仕上がりを確認する。

 これでよし。


 セシリアは食い入るように俺の指先を見ていた。


「どうやって……その加減を判断しているの? 何か特別な法則や、指先の力の入れ方に基準があるの?」


 俺にしてみれば難しい理屈などない。


「法則なんてありませんよ。三十年もやっていれば、手が覚えるものですよ」

「手が覚えている……?」


 感覚を説明しろと言われてもうまく言葉では言い表せない。

 包丁を作り続けて、いつの間にかそうなっていた。


「十五の頃からですかね。まあ、ずっと包丁を触ってきましたから」

「最初から……こんな風に研げたわけではないのでしょう?」

「まさか」


 俺は苦笑して首を振った。


「最初なんて酷いものでしたよ。刃は波打つし、研げば研ぐほど切れなくなる。何度もやり直しましたよ」


 俺は作業台の隅にある木箱を引き寄せた。

 ガラクタ混じりに押し込んであった古い包丁を取り出し、セシリアに見せる。


「これなんか、俺が十六の時に初めて一人で仕立てたやつです」


 セシリアは両手でそれを受け取った。


 刃線は歪み、厚みも不均一だ。

 柄の差し込みも甘く、今の俺から見れば恥ずかしくて人に見せられたものではない。


「最初は、こんなものでした」

「……これを、使った人がいたの?」

「ええ。母親が使ってくれたんです。『重くて使いづらい』『こんな包丁じゃ手が疲れる』って、散々文句を言われましたよ。文句を言われるたびに刃を削り直して、重心をずらして……そうやって少しずつ、マシな形にしていったんです」


 セシリアは不格好な古い包丁と、俺が先ほど研ぎ終えた包丁を交互に見つめていた。


 指先で古い刃の厚みを確かめ、柄を撫でる。

 しばらくして、古い包丁をそっと作業台の上に置いた。


「これが、三十年の積み重ねですか……」

「大げさですよ。ただ、包丁を作ってきただけです」


 セシリアは目を閉じ、胸に手を当てると大きく深呼吸した。


「ガルドさん」

「はい?」


 セシリアはわずかに言いにくそうに視線を泳がせたあと、俺の目を見直した。


「……あなたに、剣を作ってもらうことはできるかしら?」


 耳を疑った。


「剣、ですか……?」

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