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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第4章 俺はここで料理をしたいんですよ

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第26話 今日も、まだまだ忙しい

「せっかく声をかけてもらったのに、申し訳ないんですが……」


 入口へ向かって踏み出しかけていたレオンの足が止まった。

 レオンは振り向き、一瞬、眉間に深いシワを寄せた。


「……何だ?」


 レオンは取り繕うように笑って見せた。


「何か問題でもあるのか? 給金のことなら、話し合い次第で――」

「いえ。条件が悪いとか、そういうことじゃないんです」


 レオンは笑顔を壊さないまま、俺のほうへ一歩踏み込んできた。


「だったら戻ればいいだろ。お前は職人だぞ。こんなところで料理なんかしてる必要がどこにある?」

「包丁を作るのが嫌になったわけじゃありませんよ」


 包丁を作ること自体は、今でも好きだ。


「じゃあ、なおさら戻ればいいだろ!」


 レオンの声が、店内によく通る大きさになった。


「王都中の料理人がお前の包丁を欲しがってるんだぞ。工房に戻れば、職人としてまともな生活ができる。こんな小さな食堂で仕入れに追われるより、ずっとお前のためになるんだ」


 レオンの眉間に皺が寄っていく。

 怒っているのか、笑っているのか、よくわからないしわくちゃな顔になっている。


 俺は店内を見回した。


 鉄板の上でオーク肉がジュウジュウと旨そうな音を立てている。

 香ばしいニンニクと脂の匂い。

「うめえな」「麦酒がキンキンに冷えてやがる!」と笑い合う客たちの声が耳に届く。


「俺はね、ここで料理をするのも好きなんですよ」


 レオンの拳がプルプルと震えているのが見えた。


「朝、市場に行って食材を仕入れて。包丁で肉を刻んで、火を通す。それを食べた客が『美味い』って笑ってくれて……また来るよと言ってもらえる。やっぱり嬉しいんですよ。すごく」

「そんなもの……職人だって同じだろ。客が喜ぶのを見るのが仕事だ」

「ええ。包丁を作るのも楽しかったですよ」


 俺は昔の工房で鉄を叩いていた頃を少しだけ思い出した。

 確かにあの仕事も楽しかった。


「でも……」


 レオンの充血して真っ赤になった目を見た。


「こっちのほうが楽しいんですよ」


 レオンの目が左右に泳ぐ。


「お、お前……正気か? 工房を、職人の地位を捨てて……」


 カウンターの常連が麦酒のグラスを傾けながら言った。


「そうだよな」


 俺が振り向くと、その常連の男がニッと笑ってグラスをあおった。


「親父がここで料理作ってるから、俺たちは食いに来てんだよ」

「そうだぜ。俺も親父の飯が好きだし、いなくなったら困るな」


 奥のテーブルからも、気楽な合いの手が飛んでくる。


 レオンは震える右手で額を抑えた。

 何も言わず、店内を見回した。

 カウンターで肉を頬張る客、

 楽しそうに酒を飲む職人たち、

 戸口の向こうで並んでいる行列。


「……」


 口を少しだけ開け、何か言いかけたようだったが、結局レオンは口を閉じた。

 右手の隙間から赤い瞳が揺れているのだけが見えた。


「すみませんね。お客さん待たせてるんで」


 俺はそう告げると、厨房へ戻った。


 待っている客たちに「お待たせしました、どうぞ」と声をかけると、カウンターの客が皿をポンと叩いた。


「親父! オーク肉もう一つ頼む!」

「はいよ、すぐ焼くよ!」


 まな板の前に立ち、包丁を握り直す。

 使い込んだ柄の感触が、手のひらにしっくりと馴染む。


 オーク肉をまな板に置き、刃を滑らせた。

 筋がすっと切れ、きれいな断面が現れる。

 鉄板に乗せると、パチパチと香ばしい音が立ち上り、煙とともに旨そうな匂いが広がる。


 今日も、まだまだ忙しい。

 俺は額についた汗を拭った。


「さて……次の注文はなんだ?」

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