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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第4章 俺はここで料理をしたいんですよ

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第21話 作るだけでは飽き足らず、使いこなすのもお手の物とはな

 バラムは頭をガリガリと掻きながら右手を伸ばしてきた。


「いや、その……すまん。他の包丁も見せてもらっていいだろうか」

「ええ、いいですよ」


 肉の解体にいつも使っている出刃包丁を差し出す。

 バラムの手の震えが包丁を伝わってくる。


 隣に座る騎士さんとバラムの肩がこすれ合っている。

 二人とも気にする様子はなく、ただ包丁を凝視している。


 バラムは包丁を光にかざし、刃線の反り、身の厚み、柄のすげ込みを細かく検分していく。


「……ガ、ガルド。この包丁、鋼材は何を使ってるんだ?」

「鋼材ですか? 街の鍛冶屋や鉱山から仕入れられる、普通の炭素鋼ですよ」

「普通……やはり魔鉱石は使ってないんだな」

「ええ、あれを使うと劣化が早くなってしまいますからね」

「劣化、か……それで、焼き入れはどうしている」

「どうしてるって、炉の温度を色で見極めて、油に落とすだけです」

「冷却魔法は使ってないのか?」

「そんなもの使ったら刃が悪くなってしまいますよ」

「はは……悪くなる、か」


 バラムは左手で額を押さえた。

 騎士さんは顎に手を置いて、バラムの顔を見ていた。


「じゃ、じゃあ刃角はどの程度だ。この薄さでなぜ刃こぼれしない? 研ぎはどう調整している?」

「刃角は切る食材に合わせて微調整しますよ。野菜用なら少し鋭角にしますし、硬い肉や筋をやるなら刃元を少し厚めに残します。研ぎも同じですね。包丁の部位ごとに研ぎ分け、食材の繊維に噛み合わせるように仕立てているだけです」

「……それで、なんで刃こぼれしないんだ?」


 バラムは包丁の柄をカウンターにトンと当てて、俺に目を向けた。


「刃こぼれ、ですか……包丁に無理をさせないよう気を付けていれば」

「……」


 カウンターの上に置かれたコップの水が揺れている。

 バラムの包丁を握る手が小刻みに震えていた。


「言葉だけじゃ伝わりにくいですね。ちょうど夜の仕込みがあるんで、見てみますか?」


 俺は木箱から大根と魚、オーク肉を取り出した。


 まな板の上に大根を置く。

 三徳包丁を手に取り、刃先を滑らせた。


 サクッ、サクッ、サクッ。


 透けて見えるほど薄く切られた大根が、綺麗に重なっていく。狙った通りの厚みに、刃先がすっと吸い込まれるように通っていた。


 続いて柳刃包丁へ持ち替える。

 銀色に光る魚の胴体に刃元を当て、手前へ引く。

 スッ、と刃が吸い込まれ、皮と身が離れた。


「切り口を荒らさずに引いて切るなら、この柳刃です。食材の旨味を閉じ込めるための仕立てですね」


 最後にオーク肉を引き寄せる。

 出刃包丁を滑らせ筋を撫で切る。


「骨や硬い肉を切るなら出刃です」


 包丁を布巾で拭きながらバラムを見た。


 用途に合わせて研ぎと刃付けを変えることが、包丁に無理させないための秘訣ですよ」


「……これを、毎日やっているのか?」

「ええ、俺も子供の頃はよく包丁に無理させて、そのたびに母に怒られてましたから。もう習慣みたいなものですよ」

「そ、そうか」


 バラムは握りしめていた包丁をコトンと倒した。


「作るだけでは飽き足らず、使いこなすのもお手の物とはな」

「料理人なら普通じゃないですか? 道具を思い通りに動かして、食材を仕込む。特別なお店じゃなくても、みんなやってることだと思いますよ」


 バラムは包丁をカウンターに置くと両手を組んで親指で眉間を撫で始めた。


「俺は料理人じゃないから、そこらへんのことはあまり詳しくないんだがな……鍛冶師の目線でこの包丁を見たときに聖剣に似ていると思った。聖剣そのものを作ったとは言わん。だがな、武器として見ても一流の刃物と同等以上の完成度を持っている。ガルド、お前は自分がどんな包丁を作っているのか、本当に分かっているのか?」


「料理に使いやすい包丁ですよ」


 バラムは天井を見上げ、首を振るばかりだった。

 包丁を布で包み直すと、腰の鞄へ仕舞い込んだ。


「……これはライナスから預かってきたものだ。いったんギルドで保管させてもらうぞ」


 ライナス……俺が包丁を売った商人のことだろうか。


「ええ、どうぞ」

「……ガルド」

「はい?」

「お前のことを、王都の職人たちに伝える」

「ええ? そんな大げさな……」

「大げさじゃあない」


 ガタッと椅子が倒れる音がした。

 バラムは立ち上がると右ひじをカウンターにつけ、身を乗り出した。


「この技術を知って、黙っていられる職人なんて王都にはいない。少なくとも俺はそうだ」


 騎士さんはしゃがみ込んでバラムが倒した椅子を元に戻した。


「バラム殿、時間も押していますし、今日はこれくらいで」

「そ、そうだな」


 バラムは俺に向きなおすと頭を小さく下げた。


「長居して済まなかった」

「いえいえ」


 暖簾から出ていく二人の背中を見送った。

 俺は料理を見て欲しかったんだけどな。

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