第20話 その包丁、俺のですね
昼の営業が一段落し、嵐のような忙しさが去った店内を片付けていた時だった。
カラランと、入口の鈴が鳴る。
「いらっしゃい……」
暖簾をくぐってきた二人組を見て、言葉が途切れた。
先頭に立っているのは、見慣れた鎧を纏った男。
忘れるはずもない。以前この店に来てオーク肉を平らげ、包丁をまじまじと観察していた、あの騎士さんだった。
そしてその隣には、無骨で力強い体つきをした初老の職人風の男が並んでいる。鋭い眼光で、店内を検分するように見回していた。
騎士さんが俺の顔を見て、軽く口元を緩めた。
「久しぶりだな、店主」
「ああ、前の騎士さんかい。いらっしゃい」
俺が応じると、隣の職人風の男が少し意外そうに騎士へ視線を向けた。
「知っているのか?」
「ああ。以前、この近くで任務があった際に立ち寄らせてもらった」
男は俺に向き直ると、短く名乗った。
「俺はバラム。武具職人ギルドで鍛冶師をやっている」
「どうも。俺はガルドです。食堂の店主をやってます」
挨拶を交わしたところで、バラムは大きく目を開けてカウンターに両手を叩きつけた。
「ガ、ガルド!? 本当にガルドなのか!?
なんだ?
俺の名前、そんなおかしいのか
「ま、まあいい、腹が減った。注文を頼めるか」
「はいよ。何にします?」
「俺は前と同じオーク肉の鉄板焼きを頼む」
「俺も……それでいい」
「かしこまりました。すぐに作りますね」
厨房に戻り、鉄板に火をつける。
厚切りにしたオーク肉を包丁で手際よく切り分け、熱した鉄板へ乗せた。ジュワッという豪快な音とともに、焦げた脂の香りが立ち上る。
手早く焼き上げ、二人の前へ皿を運んだ。
騎士は慣れた手つきでナイフとフォークを伸ばし、肉を一口運ぶ。
「……やはり、うまいな。この柔らかさと旨味は、他では味わえん」
「口に合って良かったです」
隣のバラムも肉を口に運ぶと、しばらく無言で噛み締めていた。
肉の断面や焼き加減を確かめるように、何度か視線を落とすが、多くは語らなかった。
料理を食べ終え、皿を下げたところで、バラムが姿勢を正した。
「……店主。実はな、今日ここへ来たのは、食事だけが目的じゃないんだ」
バラムは腰の鞄に手を伸ばすと、布に包まれた物体を取り出し、カウンターの上へ置いた。
結び目が解かれ、現れたのは一本の三徳包丁だった。
俺はその刃の反り、柄のすげ込みを見た瞬間に分かった。
「ああ、これ……俺の包丁ですね」
手元の癖で一目で分かる。間違いなく俺が仕立てた一本だ。
どうしてバラムたちが持っているんだ。
バラムの喉からゴクリという音が聞こえてきた。
「……この包丁はな、今、王都の鍛冶師や商人たちの間でちょっとした噂になっている品なんだ。一体誰がこれほどの刃を打ったのかと、探し回っている」
「へえ、王都でそんな噂が?」
そういえば、冒険者たちがそんな話をしていたな。
「そうだ。製作者は元包丁職人で、今は王都の外れで食堂をやっているという情報まで掴んだ。俺たちはその男を探しに来たんだ」
バラムは顔を上げて、俺をじっと見つめた。
「あんた、ガルドと名乗ったよな……」
「はい、ガルドです」
「その職人もな……ガルドという名前らしいんだ」
「ん?」
少しの沈黙の後、バラムはすーっと大きく息を吸った。
「単刀直入に聞こう。この包丁を作ったのは……本当にあんたなのか?」
カウンターに乗せられた三徳包丁を手に取り、刃先に指を滑らす。
「うん、この反り。やっぱり俺が打ったもので間違いないですよ」
「――――」
バラムは目を見開き、口をぽっかりと開けたまま頬をつねっている。
隣の騎士さんは目を閉じ、首を縦に振っていた。
誰も一言も発さなかった。
「……どうかしました?」




