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追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第3章 聖剣の鍛冶師

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第19話 王都で噂になるなんて、凄い包丁職人もいたもんだな

 王都の中心部、武具職人ギルドの奥部屋。

 分厚い扉の先で、バラムは数人の熟練鍛冶師やギルド関係者を前に、図面が置かれた円卓へ手をついていた。


「……信じ難いのは分かっている。だがな、あの包丁の切れ方は、過去の文献に残る聖剣の記録と似ているんだ」


 卓を囲む職人の一人が、腕を組んで眉をひそめた。


「バラム、いくら何でも極端だ。片や魔物を斬るための秘宝、片や野菜を切るための道具だぞ」

「だからこそ調べている。もし、聖剣に匹敵する刃を打てる技術が実在するとしたらどうなる?」


 バラムの問いに、職人たちは押し黙った。

 ギルドの役員が、広げられた王都の地図に指を滑らせる。


「……聖剣に匹敵する刃を作れる職人、か。もし本当なら、ただ事ではないな」

「ライナスの話では、名前はガルド。元は包丁職人で、今は王都の外れのどこかで食堂をやっているらしい」

「王都の外れ、か……広いうえに店も多いな」


 役員は地図の端をトントンと指先で叩いた。


「よし。まずは同業の職人や商人へ当たらせよう。懇意にしている騎士団の知己にも噂を落としておく。ガルドという男、なんとしても見つけ出すぞ」


 ◇


 シュッ、シュッ。

 薄暗い厨房に、砥石と鋼が擦れ合う小気味よい音が響いていた。


「よし、こんなものか」


 布巾で包丁の水気を拭き取り、刃先を光にかざして線を確かめる。

 昨日持ち込まれたオークジェネラルの肉が、木箱の中で出番を待っている。


「さて、どう料理するかな」


 木箱から取り出した肉は、脂の乗りといい、きめ細やかな筋の入り方といい申し分ない。

 分厚い赤身の塊をまな板に乗せ、包丁の刃を当てた。

 部位ごとに厚さを変え、手首の重みだけでスッと引き切る。

 余計な筋を手早く引き抜き、焼き上がりで肉が縮まないよう隠し包丁を入れた。


 これだけ肉が良いなら、余計なことはしないほうがいいだろうな。

 香辛料は控えめにして、肉の味を直接確かめられる塩焼きにしよう。


 昼時になると、冒険者たちが連れ立って暖簾をくぐってきた。


「親父、オーク肉あるか?」

「今日のは脂の乗りがいいですよ」


 切り分けておいた厚切りのオークジェネラル肉を、熱した鉄板へ落とした。

 ジュワッという豪快な音とともに、焦げた脂と香辛料の匂いが店内に充満する。


「おう、相変わらずいい匂いだな!」


 冒険者たちはカウンターの席につき、運ばれてきた熱々の肉定食に勢いよく噛みついた。


「美味え! 硬いどころか、柔らかくて脂の甘みが凄え……。噛むほど旨味が出てくるぞ。王都の高級店で食った肉より美味えんじゃないか?」

「肉が良かったんですよ」


 食器を洗いながら答えると、冒険者が身を乗り出してきた。


「いやいや、肉が良いだけでこんな味になるかよ! どうやったらこんな焼き上がりになるんだ?」

「筋を丁寧に外して、火を入れすぎないようにしただけです」

「それができねえからみんな苦労してんだろ……!」


 呆れ顔の冒険者たちを見送りながら作業を続けていると、カウンターに残った一人がふと箸を止めた。


「そういや親父、知ってるか?」

「何をです?」

「最近、王都で妙な職人が噂になってるっていうか」

「妙な職人?」

「なんでも、えらく切れる包丁を作った職人らしくてな。商人やギルドだけじゃなく、王都の鍛冶師や騎士まで動いて探してるって」


 隣の冒険者が、肉を飲み込んで言葉を足す。


「そうそう。聖剣みたいな刃を作れる職人かもしれないって話で持ちきりだぜ。親父も元は包丁職人だったんだろ? 何か心当たりはねえか?」


 拭き終えた皿を棚へ重ねながら、声を返した。


「いやあ、ないですね」

「そうか。まあ、雲の上の話だよな」

「ええ。包丁職人なのに、そんなに有名になるもんなんですかね。変わった話もあるもんだ」


 冒険者たちが笑い合いながら再び肉へ食らいつくのを確かめ、厨房の奥へと向き直った。


 王都で噂になるなんて、凄い包丁職人もいたもんだな。

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