↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第3章 聖剣の鍛冶師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/63

第18話 ガルド……一体、お前は何者なんだ

 王都の鍛冶街。朝から金属を打つカンカンという槌音が響くバラムの工房に、一人の冒険者が飛び込んできたのは、太陽が昇りきった頃だった。


「バラムの親方! 噂を聞いたか!?」

「朝っぱらから騒々しいな。今、火を見てるんだ。手短に言え」


 バラムは作業着の袖で汗を拭い、炉の火から目を離さずに吐き捨てた。だが、続く言葉を聞いたところで、火鋏で掴んでいた真っ赤な鉄塊を、床の砂へと落とした。


「昨日の夕方、王都の外れの食堂前でな……冒険者が持ち込んだオークジェネラルを、店の親父が解体したんだよ!」

「……オークジェネラルだと?」


 バラムは鉄塊を取り出すことも忘れて振り返った。オークジェネラルといえば、並の解体刀では刃が立たず、ギルドの専門解体師が何人もかりで作業する大型魔物だ。


「ああ! それも解体刀じゃねえ。あの親父、いつも使ってる三徳包丁一本で、一番硬い関節の靭帯を一閃で切り外したんだ! 皆腰抜かしてたぞ……!」

「――な……っ!?」


 バラムの脳裏に、数日前の記憶が過った。

 ライナスが持ち込んできた、あの一丁の三徳包丁。過度な装飾もなく、一見すると手入れの良い普通の包丁。だが、カブや人参を切った際、一切の引っかかりを感じさせずに切れてしまった、あの異様な手応え。


(あの食堂の……ガルドという男の包丁か……!)


 バラムは作業台へ歩み寄ると、棚の奥から布に包まれた包丁を取り出した。ライナスが確認のために置いていったものだ。


「おい、親方……?」

「静かにしろ」


 バラムは包丁を持ち上げ、刃を目の高さまで上げた。

 刃線を追い、峰から刃先まで指先で確かめる。柄を握り直し、手首を返して重心の位置を確かめた。


 研ぎは丁寧だ。鍛造にも目立った歪みはない。素材も、どこにでもある良質な鋼だ。特殊な魔鉱石が塗られているわけでもない。


 バラムは包丁を角度を変えて光にかざし、刃先の線をじっと覗き込んだ。だが、どれだけ見ても、オークジェネラルの皮や筋を切り裂いた理由が見つからない。


(おかしい……。鋭いだけなら説明がつく。軽いだけでも説明がつく。硬いだけでも説明がつく。だが……)


 バラムは顎を擦り、眉間に深い皺を刻んだ。


(この三つが揃っているだけじゃない。刃が触れた肉や筋から受ける抵抗が異様なほど小さくなっている。俺が今まで扱ってきた包丁の作り方じゃあ、筋が通らん)


 バラムは包丁を握ったまま、視点を変えた。

 包丁として調べるから、理由が見えないのではないか。

 包丁ではなく、刃物としての構造から見つめ直す。


 高級な剣、名工の打った刀剣、そして王国に伝わる秘伝の刃。


 バラムの指が止まった。


 刃の滑らかさ。対象に触れた瞬間の、力の伝わり方。


 包丁と聖剣。

 用途はまるで違う。そんなものを比べること自体がおかしい。

 バラムは作業台の硬い木面に包丁の刃先をそっとあてがい、押し込む感触を確かめた。刃が吸い込まれるような手応えの記憶が、鮮明に重なる。


(……待て)


 バラムは包丁を握ったまま、動かなくなった。


(この感触……まさか)


「……聖剣に、似ている……?」


 声が漏れた。


「いや、バカな……! 聖剣だと!? 聖剣は魔物を討ち払うための王国の秘宝だぞ! これは料理人が野菜を切り、肉を叩くための……ただの包丁だ!」


 バラムは柄を握る手に力を込め、頭を左右に振った。

 用途も、見た目も、使われている場面も全く違う。


 だが、あの異常な通り方の理由は、それ以外に思い当たらなかった。


(偶然でこんな刃が生まれるか? 鍛造の工夫や研ぎの腕だけで到達できるか? 一体……どうやって打ったんだ)


 バラムは包丁を慎重に作業台の上へ置いた。


 この包丁を作ったのは、王都の外れで小さな食堂を営んでいるガルドという男だ。それはライナスから聞いている。

 バラムは荒い手つきで手袋を脱ぎ捨てると、作業台の上の包丁を見つめた。


「ただの包丁職人……なわけがない……」


 バラムは手ぬぐいを取り出し、首筋の冷や汗を乱暴に拭い去った。


「ガルド……一体、お前は何者なんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。