第12話 この刃、どこで手に入れた?
騎士さんは角度を変えながら、刃先を何度も見返していた。
刃を少し傾けて光に当て、刃線へ目を凝らし、握り直しては軽く手首を振る。
さっきまで普通に飯を食っていた男とは、明らかに顔つきが違っていた。
ただの仕事道具の包丁だ。そんなに調べられると、なんだか手持ち無沙汰になってくる。
「……そんなに珍しいものかい?」
俺が声をかけると、騎士さんは我に返ったように顔を上げた。
「……店主」
「はい?」
騎士さんは包丁を両手で慎重に持ち直し、真顔で俺を見てくる。
「この刃、どこで手に入れた?」
「どこって……」
俺は拍子抜けして首をかしげた。
「俺が作ったんだが」
騎士さんは目を大きく開き、信じられないものを見るような顔で俺を見つめてくる。
「……あなたが、作った?」
「ああ。三十年ばかり鍛冶場で包丁を打ってきたからな。店で使う分は自分で仕込んでるんだ」
騎士さんはしばらく何も言わなかった。俺の顔と手元の包丁を二度、三度と往復して見比べている。
「馬鹿な……俺は騎士として、これまで何百という剣を見てきた。腕の立つ鍛冶師が打った業物も、幾度となくこの手に取ってきた」
騎士さんは柄を軽く握り直すと、掠れた声で続けた。
「……重心に狂いがない。握った瞬間から、手の延長のように刃がついてくる。それだけじゃない。これほど抵抗なく肉を断てる刃を、俺は見たことがない。こんな仕上がりの刃……俺には説明がつかん」
一息にそこまで捲し立てると、騎士さんは椅子から腰を浮かせるほど身を乗り出してきた。
「これを本当に……あなたが一人で仕込んだというのか?」
大層な言いようだったが、俺からすれば少し大袈裟に聞こえた。
「名工なんて教えを受けた覚えはないよ。食材が綺麗に切れるよう、刃の厚みと研ぎに気をつけて打っただけだ。包丁なんてのは、切れなきゃ仕事にならんからな」
「包丁……?」
騎士さんは口を開けたまま大きくため息をついた。
「これほどの刃が……ただの包丁だというのか?」
「ただの包丁ですよ」
俺は台拭きを肩にかけ、何の疑問もなく答えた。
「肉を切って、野菜を切って、料理を作るための道具ですよ」
「…………」
騎士さんは黙り込んだ。
「……ただの、包丁……?」
そう呟き、手にした包丁へと視線を落とす。そしてもう一度俺の顔を見、再び包丁へと視線を戻した。
何にそこまで驚いているのか、俺にはさっぱり分からない。
包丁職人が自分で使う包丁を自分で作って、それで客に出す肉を切る。何かおかしなことでもあっただろうか。
「……そんなに珍しいものなのか?」
俺が首をひねりながら尋ねても、騎士さんは固まったまま答えなかった。
ただ、ただ、手にした包丁を見つめ続けていた。




