↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された包丁職人のおっさん、実は作っていたのは聖剣だった~王都の外れで食堂を始めたら、なぜか王族まで通い始めました~  作者: あずーる
第2章 ただの料理人なのか?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/63

第11話 騎士が食堂にやってきた

 営業が始まったばかりの店内に、ずしりとした足音が響いた。


 暖簾をくぐって入ってきたのは、体格のいい男だった。革の上着の上から軽甲冑を羽織り、腰には使い込まれた長剣を下げている。


 鎧姿の騎士様が一人で入ってきたことで、テーブル席で酒を飲んでいた冒険者たちや地元の客が、かすかに身を硬くして視線を向けていた。


 だが、俺にとっては腹を空かせた客の一人に過ぎない。


「いらっしゃい。空いてるカウンター席へどうぞ」

「あ、ああ……かたじけない」


 騎士さんは軽く会釈し、カウンターの端に腰を下ろした。


「騎士さんかい。今日は何にする? うちのおすすめはオーク肉の鉄板焼きだが」

「では、それを頼む」

「あいよ」


 俺はすぐに仕込みへ入った。


 まな板の上に大きなオーク肉を置く。包丁を手に取り、肉の繊維に沿って刃を滑らせた。力を入れず、すっと引くだけで肉が綺麗に切り分けられていく。


 視線を感じて顔を上げると、カウンターの端で騎士さんがこちらの様子を凝視していた。


 なんだか、さっきからあの騎士さん、俺の手元をよく見ているな。


 包丁の扱いでも珍しいのだろうか。特に気にするほどのことでもないため、俺はそのまま仕込みを終え、熱々の鉄板で肉を焼き上げた。


「はい、お待たせ」


 香ばしい音と湯気を立てる鉄板を目の前に置く。


「かたじけない、いただきます」


 騎士さんはナイフとフォークを取り、肉を一切れ口へ運んだ。


 噛んだ瞬間、騎士さんの眉が跳ね上がった。


 もぐもぐと口を動かしたまま、一瞬動きが止まる。そのままゴクリと飲み込むと、驚いたような顔で肉を見つめ、すぐさま二切れ目を口に放り込んだ。


「……美味いな。下処理はどうやっているんだ?」

「ん? 普通に筋を切って、タレに漬けて焼いただけですよ」


 俺は台拭きで作業台を拭きながら、事もなげに答えた。


 騎士さんは無言で肉を噛み締めながら、どこか納得のいかない表情を浮かべている。


 そのまま黙々と食事を進めていた騎士さんだったが、ふと視線が横へ外れた。


 厨房の脇、俺が先ほどまで使っていた三徳包丁をじっと見つめている。


 さっきから、妙にあの包丁に視線を送っているな。肉を切るときに刃が光って眩しかっただろうか。


 綺麗に食べ終えた騎士さんは、フォークを置くと声をかけてきた。


「……店主」

「はい? 追加の注文かい?」

「いや。差し支えなければ……その包丁を、少し見せてもらえないだろうか?」


 俺は少し意外に思い、目を瞬かせた。


「これですか?」

「ああ」

「別にかまいませんが……」


 包丁を見たい客なんて珍しい。俺は台拭きで包丁の身を水気がないよう丁寧に拭うと、柄を騎士さんの方へ向けて、カウンターの上に置いた。


「どうぞ」

「感謝する」


 騎士さんはためらうように手を伸ばし、包丁の柄を持ち上げた。


 持ち上げたままの手が固まっている。手首をかすかに動かしたきり、一言も発しない。


 喉からゴクリと音を立て、包丁を自分の顔の高さまで引き寄せた。


 刃先を見つめる騎士さんの顔から、さっきまでの穏やかさが消えていた。まるで何かに挑むような真剣な顔つきで、刃を見つめている。


「…………」


 急に黙り込んで包丁を見つめ始めた様子に、俺は声をかけた。


「どうかしました?」


 返事はない。


 ただ、手にした包丁を食い入るように見つめ続けている。


 さっきまで普通に飯を食っていた男とは、まるで別人のようだ。


(……なんなんだ?)


 俺には、さっぱり分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。