第81話 証明されないもの
朝、二つの話が同じ町を回った。
昼に倒れた男は、起きた。
午後に運ばれた男は、死んだ。
同じ男が、片方に触って、片方に触らなかった。
それだけの話だ。
それだけの話が、二通りに読まれた。
「触れば、治る」
そう言う者がいた。
「触らなければ、死ぬ」
そう言う者も、いた。
どちらも、同じ結論に着く。
あの男に触ってもらえ、だ。
結論だけが、同じところに着く。
途中の理屈は、どちらでもいい。
俺は、井戸端でそれを聞いた。
誰も、俺の顔を知らないわけではない。
知っていて、言っている。
聞かせている。
(……そうなるか)
昼のうちに、二人が宿に来た。
断った。
断ると、断る理由を聞かれる。
理由を言えば、それが規則になる。
言わずに断れば、気まぐれになる。
証明できたことは、何もない。
触った方が助かったのは、触ったからではない。
戻る力が、残っていたからだ。
触らなかった方が死んだのは、触らなかったからではない。
残っていなかったからだ。
順番が、逆なのだ。
だが、外からは見えない。
外から見えるのは、手と、結果だけだ。
治療所の壁の紙を、思い出した。
あそこには、こう書いてある。
手順は、違えていない。
見分けを、誤った。
誰も、そこを読まない。
読んでも、意味が取れない。
見分け、という言葉に、中身がないからだ。
中身は、俺の指の中にある。
紙には、入らない。
入らないものを省いたら、入るものだけが残った。
残ったのは、一行だ。
触ると、死ぬ。
あの作法のときと、同じだ。
戻れる状態にする、が、戻るまで待て、になった。
見分けを誤った、が、触ると死ぬ、になった。
二度、同じことが起きた。
一度目は、他人が縮めた。
二度目は、俺が縮めやすい形で渡した。
短い方が、遠くまで行く。
行った先で、意味が抜ける。
抜けた後に残るのは、怖さだけだ。
怖さは、誰にでも伝わる。
昼過ぎに、治療所の前に人が並んだ。
初めて見る列だった。
あの男が、戸口で困っていた。
列は、あの男を見ていなかった。
俺を、探していた。
俺は、裏から出た。
芽は、俺の手から出ていた。
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