第78話 書いた通りに
三日目に、ルドが来た。
外套が、以前より上等だった。
帳面は、持っていない。
代わりに、束ねた紙を抱えていた。
「探しました」
「探すな」
「探しますよ」
ルドは、笑わなかった。
治療所の外の石段に、並んで座った。
「連盟が、あれを直します」
「直す」
「一行、足すそうです」
ルドは、束から一枚を抜いた。
読んだ。
俺の失敗が、そのまま書いてある。
その下に、書き足しの案があった。
――接触は、原則として行わない。
俺は、紙を返した。
「規則になるのか」
「なります」
「止めたのか」
「止めています」
ルドは、膝の上で指を組んだ。
「三度、書面を出しました」
「通らなかった」
「読まれてもいません」
風が、石段を撫でた。
「私は」
ルドが、言った。
「書いた通りに、書きました」
「知ってる」
「一語も、盛っていません」
「知ってる」
「手順は違えていない、と書きました」
「書いた」
「見分けを誤った、と書きました」
「書いた」
「なのに」
ルドは、そこで止まった。
止まって、続けた。
「読んだ人は、触ると死ぬ、と言います」
俺は、頷いた。
「正確に書けば、正確に伝わると思っていました」
ルドは、そう言った。
「思っていた、というより」
「そう思わないと、書けませんでした」
俺は、石段の縁を見ていた。
この男は、二度、同じ場所に立っている。
一度目は、名前を書かなかったせいで、出典が消えた。
二度目は、正確に書いたせいで、一行に痩せた。
どちらも、俺が頼んだ。
「あんたのせいじゃない」
俺は、言った。
「あなたのせいでも、ありません」
ルドは、即答した。
「私が書いて、あなたが頼んだ」
「それだけです」
「それだけだ」
「二人とも、間違っていません」
「間違ってた」
俺は、そう言った。
ルドは、何も言わなかった。
しばらくして、紙の束を抱え直した。
「私は、もう書きません」
「書かないのか」
「書けば、また誰かが読みます」
どこかで、聞いた言葉だった。
俺は、頷いた。
息を吐く。
吐く方を、長く。
石段は、日が落ちると冷たかった。
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