↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回復魔法が万能な異世界で「治療魔法を使うな」と言ったら追放された 〜何もしない治療師の、静かな異世界譚〜  作者: 蒼野澪
第二部 正解にしない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/81

第77話 来ない患者

 北の町に入った。


 覚えのある道だ。


 治療所は、そのままあった。


 戸が、開いていた。


 中を、見た。


 寝台が、二つ。


 増えても、減ってもいない。


 どちらも、空だった。


 男が、床を掃いていた。


 白い法衣は、着ていない。


 神殿を出てから、一度も着ていないのだろう。


 俺に気づいて、手を止めた。


「……戻られましたか」


「通りかかった」


「通り道では、ありません」


 男は、そう言った。


 俺は、答えなかった。


 男は、箒を壁に立てかけた。


 壁には、何も書かれていない。


 削った跡が、まだ白い。


「あの人は」


 俺は、聞いた。


 男は、すぐに分かったらしい。


「戻りませんでした」


「そうか」


「朝まで、待ちました」


「待ったか」


「はい」


 男は、頷いた。


「光を入れて、待って、戻りませんでした」


 言い訳を、しなかった。


 当てすぎてはいなかった、とも言わなかった。


 俺が見ていたことは、二人とも知っている。


「家族は」


「怒っています」


「今も」


「今もです」


 男は、寝台の縁を撫でた。


「あの日から、人が来ません」


「来ないのか」


「来ます」


 男は、少し言い直した。


「来て、戸口で止まります」


「止まる」


「入って、こう言われます」


 男は、自分の胸の前で掌を合わせた。


「触らないでください、と」


「言うのは、誰だ」


「本人です」


 男は、言った。


「連れてきた家族では、ありません」


「運ばれてきた人が、自分で言います」


 俺は、寝台を見た。


 二つとも、空だ。


「光だけなら、当ててよいと言われます」


「当てるのか」


「当てます」


「触らないのか」


「触ります」


 即答だった。


「触って、それから、当てます」


「言われるぞ」


「言われます」


 男は、箒を取った。


「毎回、言われます」


「やめないのか」


「やめません」


「なぜ」


「触らないと、分かりませんから」


 毎回、迷うことになるぞ。


 いつか、俺がそう言った。


 迷う相手が、いなくなるとは言わなかった。


 男は、床を掃き始めた。


 掃くほど、汚れていない。


 やることが、それしかないからだ。


 俺は、戸口に立っていた。


 息を吐く。


 吐く方を、長く。


 箒の音は、止まらなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。