第74話 指しているだけだ
六日目に、白い法衣が来た。
治療所の男たちとは、別の白だ。
汚れていない。
道を歩いてきた者の白では、なかった。
調停官だ。
顔は、知らない男だった。
あの男でも、その前の男でもない。
だが、同じ種類の目をしていた。
治療所に、入った。
十を数えるほどで、出てきた。
中で、何をしたわけでもない。
壁の紙を、一度見た。
頷いた。
それだけだ。
俺は、通りの向こうにいた。
男が、こちらを見た。
驚かなかった。
歩いてきて、隣に立った。
「久しぶり、とは言えんな」
「会ってない」
「会っていない」
男は、頷いた。
「だが、報告は読んでいる」
「読むほどのことがあるのか」
「ない」
即答だった。
「何も、していないからな」
俺は、治療所を見た。
「あの紙は、あんたらが貼ったのか」
「違う」
「貼ってあった」
男は、そう言った。
「貼ったのは、あそこの治療官だ」
「なぜ」
「怖いからだろう」
「怖いのか」
「治療官がだ」
男は、そう言った。
「あれを貼っておけば、触らずに済む」
「触らずに済めば、責められん」
通りの砂が、少し動いた。
「我々は、指しているだけだ」
男は、言った。
「祝福は、神殿の管理下にある」
「管理の外の接触は、危険だ」
「そう言ってきた」
「二十年、そう言ってきた」
「誰も、信じなかった」
男は、壁の方へ顎をやった。
「今は、あの紙がある」
「連盟の名で、出ている」
「我々の名では、ない」
俺は、黙っていた。
「南の二つの町は、どうなった」
「静かになった」
「静か」
「誰も死なん」
男は、言った。
「誰も、戻らんがな」
「それで、いいのか」
「よくはない」
「だが、静かだ」
「静かなのが、我々の仕事だ」
それきり、何も言わなかった。
去り際に、一度だけ振り返った。
「君は、何か言うのか」
俺は、答えなかった。
答えられなかった。
あの紙は違う、と言えば、待つやり方が戻ってくる。
あの紙は正しい、と言えば、誰も触らなくなる。
黙っていれば、紙がそのまま残る。
三つとも、俺が根拠だ。
男は、頷いて、去った。
最後まで、敵意はなかった。
持つ必要が、なかったからだ。
勝った顔も、していなかった。
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