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回復魔法が万能な異世界で「治療魔法を使うな」と言ったら追放された 〜何もしない治療師の、静かな異世界譚〜  作者: 蒼野澪
第二部 正解にしない

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第68話 名前のない場所で(第二部・完)

 朝、道を下りる。


 遠くに、次の街が見えた。


 規模も、制度も、これまでと大差はないだろう。


 回復魔法があり、神殿があり、壊れるまで頑張る人間がいる。


 俺が行けば、また同じことが起きる。


 起きないかもしれない。


 それでも、いい。


 前に、同じことを思った。


 あのときと、一つだけ違う。


 俺は、一度、正解になりかけた。


 名乗らなかったから、影が正解になった。

 消したのは、俺だ。


 誇れることじゃない。


 次に同じことが起きたとき、

 俺が正しく動ける保証も、ない。


 それでも――


 止まれる場所が、確かにあると知っているだけだ。


 道端で、誰かが立ち止まっているのが見えた。


 倒れてはいない。

 走ってもいない。


 ただ、深く息をしている。


 俺は、少しだけ足を止めた。


 何も言わない。

 触らない。


 名前も、つけない。


 ただ、同じように息を吐く。


 吐く方を、長く。


 それで、十分だ。


 流れは、今日も動いている。

 世界は、何も変わらない。


 変えられるとも、もう思っていない。


 その外側で、俺は、歩き続ける。


 名もない仕事を、

 名乗らないまま。


 次の街では、

 誰も、人に触らなくなっていた。

第二部まで読んでくださり、ありがとうございました。


第一部は、

「止まることを選べるか」だけを書いた物語でした。


第二部は、その続きです。


書きたかったのは、

「止まることを、正解にしないでいられるか」でした。


主人公は、第一部で何も残しませんでした。

名乗らず、教えず、体系にもしませんでした。


それは、正しい判断だったと思います。


けれど、残さなかった場所には、

別の誰かが、それらしいものを置いていきます。


善意で。

有能に。

まじめに。


そして、まじめであるほど、

それは疑われなくなります。


そういう話を書きました。


主人公は、今回も何も成し遂げません。

世界も、やはり変わりません。


彼にできたのは、

自分の失敗を差し出して、

自分を正解から降ろすことだけでした。


現実でも、

正しさを配ることは、意外と簡単です。


難しいのは、

配ったものが独り歩きしたあと、

それを引き受けることの方だと思います。


――ここまでが、第二部です。


彼が差し出したものは、残ります。

残ったものは、彼の手を離れます。


第三部は、そこから始まります。


彼の書いた紙が、次の街で壁になっていました。

貼ったのは、彼ではありません。


続けてお読みいただけましたら幸いです。


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