第67話 消したのは、君だ
町を出る朝、水場に白い法衣が立っていた。
待っていたらしい。
「見送りか」
「確認だ」
俺は、水を汲んだ。
「動かなかったな」
「動く必要が、なくなった」
男は、そう言った。
「今度は、君が消した」
「……ああ」
否定できなかった。
神殿は、記録を回収して、危険性を強調した。
俺は、自分の失敗を書かせて、連盟の名で出した。
怖い紙を配って、人を遠ざけた。
方法まで、そっくりだ。
「気分は」
男が聞いた。
興味本位ではなかった。
本当に、確かめている顔だった。
「よくない」
「だろうな」
男は、水場の縁に腰を下ろした。
「一つ、聞かせてくれ」
「聞く」
「君は、間違っていたと思うか」
同じ問いだった。
あのときと、一語も違わない。
あのときは、少し考えた。
今度は、考えなかった。
「間違っていた」
即答だった。
男の指が、止まった。
「……前は、分からないと言った」
「言った」
「変えたのか」
「変わった」
俺は、水袋の口を締めた。
「あのときの俺は、何もしていなかった」
「していないから、分からないで済んだ」
「今は」
「殺した」
白い法衣が、動かなくなった。
「作法で助かる人間も、いた」
「その道を、俺が閉じた」
「閉じなければ、死ぬ者がいた」
「そうだ」
俺は、立ち上がった。
「どちらが多いかは、分からん」
「分からないまま、片方を選んだ」
「それを、間違いと呼ぶのか」
「呼ぶ」
男は、しばらく黙っていた。
笑わなかった。
「……そうか」
それだけだった。
それでいい、とは、言わなかった。
「あの部屋は」
俺は、聞いた。
「潰さないのか」
「潰すほどのものではなくなった」
男は立ち上がった。
「一人でやる分には、我々は困らない」
「困らないのか」
「一人は、広がらない」
広がらないものは、放っておかれる。
俺が、ずっとそうしてきたように。
「また、同じことが起きる」
「起きるだろうな」
男は、否定しなかった。
「君が消しても、消えない」
「形を変えて、また出てくる」
「知ってる」
「そのたびに」
白い法衣が、道の方を向いた。
「君のような者が、現れる」
歴史が歪む時、必ず、同じ場所に現れる。
いつか、そう言われた。
あのときは、大袈裟な言い方だと思った。
今は、そう思わない。
同じ場所に現れたのは、俺だ。
二度目だ。
三度目が、いつか来る。
そのとき、俺がいるかどうかは分からない。
いなくても、誰かがいる。
いなければ、
誰も止まらない。
「達者でな」
男は、そう言って去った。
最後まで、敵意はなかった。
俺は、水袋を満たした。
思ったより、重い。
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