第65話 並んだ二つの死
紙は、思ったより早く回った。
ルドは、都市連盟の名で写しを出した。
【触れて悪化させた事例】
題は、それだけだ。
中身は、あの晩に話したことがそのまま書いてある。
手順は違えていないこと。
待てない身体だと思ったこと。
待てる身体だったこと。
効いた話ではない。
だが、作法の名を出さずに、作法の急所だけを撃っていた。
半月ほどして、写しが北へ戻ってきた。
届いた日から、待つための部屋が変わった。
誰も、手順を信じなくなった。
順番どおりにやっても、見誤れば死ぬ。
そう書いてある紙が、一枚あるだけでよかった。
寝台の脇で、担当が迷うようになった。
迷うのは、いいことだ。
いいことのはずだった。
だが――
迷う者は、遅い。
遅いと、家族が怒る。
「作法どおりにやってください」
そう言われて、答えられない治療官がいた。
その隣で、別の家族が言った。
「作法どおりでも、見誤ると聞きました」
両方、同じ部屋の中でだ。
人が、離れていった。
最初に離れたのは、助かった人たちだった。
豆を選っていた老女が、俺を見て目を逸らした。
息子が助かった家だ。
喉の奥が、鳴った。
(……そうなるか)
三日目に、白い法衣が来た。
調停官だった。
治療所の前で、しばらく立っていた。
部屋は、半分空いていた。
男は、中に入らなかった。
入る価値がないと判断したのだろう。
俺の方へ、一度だけ視線を寄越した。
それだけで、去った。
我々が動く、と言っていた。
動いてはいる。
南の二つの町で、待つ部屋が神殿に引き取られたと、後で聞いた。
この町だけが、残った。
残ったというより、要らなくなった。
夕方、あの男が帳面を燃やした。
中庭で、一枚ずつ。
俺は、止めなかった。
「燃やしても」
男は、火を見ながら言った。
「写しは残ります」
「残る」
「一生、消えません」
「消えない」
俺は、そう答えた。
嘘は、つかなかった。
紙は、消えない。
俺の失敗も、消えない。
どちらも残って、どちらも正しくない。
そのままで、置いておくしかない。
火が、小さくなった。
部屋の患者は、五人から二人になっていた。
二人は、まだそこにいる。
行くところが、ないからだ。
俺は、その二人を見た。
一人は、待てば戻る。
一人は、たぶん戻らない。
見れば、分かる。
分かっても、俺は言わない。
言えば、また始まる。
息を吐く。
吐く方を、長く。
火の跡が、まだ熱い。
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