表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回復魔法が万能な異世界で「治療魔法を使うな」と言ったら追放された 〜何もしない治療師の、静かな異世界譚〜  作者: 蒼野澪
第二部 判断は、教えられない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/72

第61話 門番の肩

 北の町を出て、三日下った。


 行くとは、決めていなかった。

 足が、そちらへ向いていた。


 川沿いの町の門は、小さかった。


 石を積んだだけの、簡単な門だ。


 そこに、男が立っていた。


 鎧は着ていない。

 厚い上着と、革の帯だけだ。


 背は、前より少し縮んで見えた。


 目が合った。


 あの男は、驚かなかった。


「よう」


 それだけだった。


 俺も、それだけ返した。


「久しぶりだな」


 門の脇に、木の腰掛けがある。

 俺は、そこに座った。


 男は、立ったままだった。


「座らないのか」


「座ると、立つのが面倒でな」


 笑っていた。


 肩を、少し庇っている。


 右が、前に出ていない。


「肩は」


「治ってない」


 即答だった。


「まだ、戻り続けてる」


 俺は、頷いた。


「見るか」


「いや」


 俺は、首を横に振った。


「立ててるなら、いい」


 それで、十分だ。


 男は、それで納得したらしい。


 こういうやり取りが、この男とはできる。


 昼過ぎ、荷運びの若いのが門を通った。


 肩で息をしていた。

 顔は、赤い。


「おい」


 男が、声をかけた。


「下がれ」


「まだ行けます」


「行けるうちに下がるんだ」


 若いのは、不服そうだった。


「あと二往復で終わりなんで」


「二往復で、明日が消える」


 男は、それだけ言って、顎で日陰を指した。


 若いのは、渋々そこに座った。


 俺は、黙って見ていた。


 この男は、触っていない。

 脈も取っていない。

 押してもいない。


 ただ、下がれと言った。


 それだけだ。


 それだけのことを、俺は、ずっと教えられなかった。


「あんた」


 俺は、聞いた。


「北の話を、聞いたことは」


「北」


「作法だ」

「待つやつ」


 男は、少し考えた。


「聞いたことはあるな」


「習ったのか」


「習うも何も」


 男は、鼻を鳴らした。


「あれだろ。光を当てないやつ」

「うちには治療官がいねえよ」


 いない。


 この町には、待つための部屋がない。

 順番も、記録も、帳面もない。


 それでも、この門では、人が止まっている。


「なんで、下がれって言うんだ」


 俺は、聞いてみた。


 男は、心底不思議そうな顔をした。


「言われたからだよ」


「誰に」


「あんたに」


 息が、止まった。


「壊れる前に、来い」


 男は、日陰の若いのを見ながら言った。


「あれを言われたとき、思ったんだ」

「なんで、こいつは俺に来いって言うんだと」


「……」


「壊れてからじゃ、来ても遅いからだろ」


 俺は、答えなかった。


「だったら、先に下げりゃいい」


 男は、肩を回した。


 右は、途中で止まった。


「簡単な話だ」


 簡単な話だった。


 俺が、何十枚の紙にもできなかったことを、

 この男は、一言で持っていた。


 教わっていない。

 名前も知らない。


 ただ、そうしている。


 俺は、腰掛けから立った。


「約束は」


 男が、言った。


「まだ切れてねえぞ」


「……ああ」


 息を吐く。


 吐く方を、長く。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ