第57話 救われた人たち
翌日、町を歩いた。
あの男が案内すると言ったが、断った。
一人で見たかった。
結果として、一人でも同じだった。
この町の人間は、俺が治療所の中庭にいたのを覚えていて、
勝手に喋ってくれた。
「あの先生には、世話になってね」
豆を選っていた老女が言った。
「息子が、荷崩れで潰されたんだよ」
「光は」
「当てなかった」
老女は、豆を選る手を止めなかった。
「三日、寝かせてくれてね」
「四日目に、水を飲んだ」
俺は、頷いた。
それは、正しい判断だ。
潰された身体に光を通せば、行き場のないものが内で暴れる。
待つのが、いい。
この男は、見分けている。
少なくとも、この一件は。
石工の男にも聞いた。
パンを焼いている女にも聞いた。
三人が、助かっていた。
だが――
どれも、光を当てていたら死んでいた。
(……できてる)
認めるしかなかった。
それだけではない。
人が、怯えていない。
光を当てないと言われて、怒る家族がいない。
「作法だから」で、納得している。
説明を、しなくていい。
俺が一番、苦労したところだ。
俺は、いつも説明できなかった。
説明しようとして、嘘になった。
この男は、説明を要らなくした。
名前をつけたからだ。
(……そうか)
通りの端で、足を止めた。
助かった三人は、疑わなかった。
死んだあの男も、疑わなかった。
夕方、宿に戻ると、ルドが帳面を開いていた。
「どうだった」
「効いてる」
俺は、正直に言った。
「三人、聞いた」
「全部、正しい判断だった」
ルドは、筆を止めた。
「では」
「だが」
俺は、腰を下ろした。
「川向こうで、一人死んだ」
ルドは、何も言わなかった。
書きもしなかった。
しばらくして、こう聞いた。
「どちらが多い」
「分からん」
分からない。
助かった数を数える者はいる。
死んだ数を数える者は、
いない。
作法どおりに死んだ人間は、
作法のせいでは、ないことになっている。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




