第53話 傭兵団は解散した
街道で、荷馬車に追い抜かれた。
御者が、俺の顔をしばらく見ていた。
「あんた」
馬を止めて、振り返った。
「治療係の人か」
俺は、答えなかった。
男の顔には、見覚えがあった。
名前は知らない。
あのころ、名前を聞かなかった。
聞けば、聞かれる。
「乗るかい」
乗った。
荷台は、麦の匂いがした。
「団は」
少し迷ってから、聞いた。
「解散したよ」
男は、前を向いたまま言った。
「長くは、もたなかったな」
「団長は」
「生きてる」
俺は、麦の袋に背を預けた。
「神殿の仕事を受けてな」
男は、鼻を鳴らした。
「大きい戦だった」
「勝ったよ。ちゃんと勝った」
「……そうか」
「勝ったんだが」
馬が、鼻を鳴らした。
「帰ってきた奴らが、そのうち半分になった」
俺は、何も言わなかった。
珍しい話ではない。
傷は塞がっている。
骨も繋がっている。
記録の上では、全員が動ける。
動ける、というだけだ。
「団長は、今は畑をやってる」
「畑」
「向いてないよ」
男は、笑った。
少しだけ、寂しそうだった。
「副団長は」
俺は、聞いた。
聞くつもりはなかった。
勝手に、口が動いていた。
「ああ」
男は、少し明るい声になった。
「あいつは、川向こうの町で門番をしてる」
門番。
「肩は」
「治ってない」
「治ってないが、動いてる」
「毎日、立ってるよ」
俺は、荷台の縁を掴んだ。
思っていたより、指に力が入っていた。
あの男は、別れ際に言った。
壊れる前に、来い。
あれは、俺があの男を心配して言った言葉の、返しだった。
俺が誰かに何かを言われて、
断らなかったのは、たぶんあれが最後だ。
約束は、まだ切れていない。
切れていないことに、今まで気づかないふりをしていた。
「降りるかい」
分かれ道だった。
北へ行けば、作法の広がっている方だ。
西へ行けば、川がある。
俺は、荷台から降りた。
「世話になった」
「名前は」
「通りすがりだ」
男は、笑って馬を出した。
俺は、分かれ道に立っていた。
風は、西から来ていた。
川の匂いがした。
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