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星環の遺産  作者: クリスタルボウイ
火星航路編

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8/21

8.神谷レイ

 特に見たい映画じゃなかった。本当に偶然だ。


 幼い頃……多分、物心ついたばかりか少し経った頃だと思う。

離れに住む年の離れた兄の部屋に遊びに行ったとき、兄は映画を見ていた。


 兄は古い映画が好きで、アキハバラ?そんな名前の電気街の裏路地で、廃棄DVDを二束三文で買ってきては「B級だ」「C級だ」と自己評価する、自称映画マニアだった。


 この時代、DVDなんてアナログ媒体プレイヤーがあること自体が奇跡だ。動画データがデジタル記録されているのは知っている。物理的な記録媒体に保存されていること自体アナログで、今では骨董品だ。


 スクリーンの中で、男がジャングルを切り裂き、鞭を振るっている。


 ジャングル?コンクリートの壁だらけの街を言うんじゃなかったっけ?


 冒険にどうしてドジな女が必要なのか?子供の俺にはわからなかった。


 突っ込みどころ満載だ。


 作りもひどい。


 ワイヤーアクション丸見えの空中シーン。

 編集箇所バレバレの動画加工。

 真剣に演じているアクターが可哀そうで、思わず笑いそうになった。


 インディージョーンズシリーズというらしい。

 主人公は超有名な俳優らしかったが、兄の評価は低かった。


 しかし、ストーリーは練り込まれていたと思う。


 映像の拙さに慣れるにつれ、物語に自分を重ね始め、いつしか真剣に見入っていた。


 胸の奥で何かが燃え始めていた。未知の世界を切り開く考古学者──なにそれカッコいい!

 その響きに、俺の子供心は奪われた。


 今の時代、木が生い茂るジャングルなんて見たことがない。

 アマゾン?通販サイトのことじゃないの?


 だから、近所の空き地を映画のジャングルに見立てた。

 閉鎖された工場は古代遺跡、地下通路は神殿への入口。

 遭遇する猫はトラ、ゴキブリは巨大昆虫。

 姿勢を低くして草むらを抜けるとき、僕は映画の主人公になりきっていた。


 一人きりの冒険。それが気に入った。

 近所に同世代の友人がいなかった僕には、孤独なヒーローに親近感を覚えた。


 考古学者への情熱は、学生になっても消えておらず── いや、少し違うな。

この歳になれば物事の分別は付く。

 ──冒険心を胸の片隅に考古学を専攻した。子供のころ夢に見た光景に淡い期待を抱いて。


 だが、現実は違った。


 泥まみれの発掘現場どころか、埃まみれの文献と格闘する日々。

 ジャングルも遺跡もない。

 あるのは数字と資料と、自慢話だらけの退屈な研究発表。


 冒険なんて、スクリーンの中だけのものだと悟った瞬間、胸の火が消えた。


 夢は現実で上書きされた。


 つい、さっきまで。


 クライアントの言葉が、すべてを変えた。


「封印を解け」


 その瞬間、胸の奥で何かが弾けた。あの鞭の音が、再び耳に響いた気がした。


 震えたよ。


 心に火がついてしまった。


 子供の頃、空き地で草をかき分けたあの感覚が蘇る。

 ジャングルじゃない。

 だが、俺にとってはそれ以上だ。


 あのテーマソングが心の中で鳴り続けて止まない──。


 気が付けば、隣にはドジな?女の子もいる。なるほど、必要性を実感した。


 この現実がスクリーンになったんだ!

次の土曜更新予定です

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