41 光輝の夢
お待たせしております、最終章です!
(原作書籍やコミックもよろしくお願いします!)
最後まで、雨宮さんとhikariを見守ってあげてください~!
夜、布団で眠っている最中。
夢を見ていたら「あ、これ夢だな」って、途中で悟る時ないか?
明晰夢というのだったか……今がそれだ。
俺こと晴間光輝は夢の中で、ひとり賑やかな日中の街中を歩いている。
ラフな私服姿で女装はしていない。ありのままの俺だ。
手には本屋で購入したのか、むき出しでファッション雑誌を持っていて、表紙を飾るのは知らないモデルの子だ。
いや、本当に知らない。
誰だろう?
ただ雑誌自体は、嫌になるほど知っている。
大手ファッションブランド『Candy in the Candy』こと、通称『アメアメ』が定期で発行しているもの。『冬に着たい! 世界で一番可愛い女の子のコーデ特集』がメインの内容らしい。
ここまで俺は違和感の正体が掴めずにいた。
しかし、すぐに理解する。
「――あなたのハートもとろけちゃう? 今年も新味、発売!」
「あ、このチョコのCMモデル可愛いよね!」
「今一番可愛いって話題のモデルだっけ?」
ショッピングビルの巨大モニターを、道端で足を止めた女子高生ふたりが見上げている。俺と同じ高校の制服だな。
モニターに映るCMは、毎年バレンタイン付近になると流れる定番のやつだ。
製菓会社の人気商品である『プチショコラシリーズ』の新味を、コンセプトに合ったモデルが出演して紹介する。
昨年はhikariが担当させてもらった。
来年も是非とのことだったが……。
「……hikariじゃない、な」
女子高生たちが「可愛い可愛い」と騒いでスマホのカメラを向けているCMモデルは、hikariじゃなかった。
俺は大通りのド真ん中で立ち止まり、急いで手元の雑誌をパラパラめくる。
これが違和感の正体か。
「なんでだ……?」
どこにも、hikariがいない。
アメアメの看板モデルで、世界で一番……いや、少なくとも二番目に可愛いはずの俺はどこだ?
テレビにも雑誌にも、hikariの姿が見当たらない。
「あ……これって」
この時点で、俺は夢の中だと悟った。
フッと天啓が下りて来る感覚だ。
それでも謎の焦燥感を覚えずにはいられなかった。
ポケットに突っ込んであったスマホを開き、念のためhikariの名前を検索しようとしたところで……女子高生のひとりが何気なく口にする。
「そういえばさ、モデルのhikariっていたよね」
「え、hikari? ああ、確かに」
「昔は人気だった気がするけど、どうなったんだろう?」
「あんたさ、知らないの」
俺は次に続いた言葉に、息を呑んだ。
「hikariは――『普通の女の子に戻ります』って宣言して、とっくに引退したでしょ」
「――いや、その台詞使いたいなら『普通の男の子に戻ります』だろ!」
盛大なツッコミと共に、俺は布団を跳ね飛ばして起き上がった。
ベッド横の窓の外では、チュンチュンと小鳥が鳴いている。
晴天のいい朝だ。
「うわっ、アラーム鳴る前に起きちまった」
枕横のスマホを手に取って確認すれば、起床予定時刻より三十分も早い。
月曜日で通常通りに学校があるので、二度寝にも微妙な時間だ。するとうっかり寝過ごし兼ねない。
なんか損した気分だな……。
「やけに意味深な夢だったし……」
窓から差し込む明るい陽の光に反した、もやっとした気分を抱えながらもスマホを手に寝返りを打つ。
残り三十分はネットサーフィンをすることにした。
夢では寸止めされたhikariの名前で検索を掛ければ、今日も「可愛い、可愛い過ぎる」「一生推せる俺の女神!」「今月号のアメアメ雑誌の表紙もhikariちゃんで最高! 二冊買った!」「可愛かった〜!」と絶賛が並んでいて、なんとなくホッとする。
ピコン!
そこで、メッセージが届いた。
表示された名前は『雨宮雫』。
俺の世界一可愛いカノジョからだったので、神速で開く。
『晴間くん、おはよう!
まだ寝ていたらごめんなさい。
お弁当の写真、送って欲しいって言っていたから……こんな感じになったんだけど、どうかな?』
添付の写真にはいわゆるキャラ弁がふたつ、キッチンの台に並んでいた。
学校で照れながら「妹たちに強請られて、今度初めて作ってみるんだ」と言っていたので、俺がぜひ見たいと熱望したのだ。
きょうだい想いの雨宮さんは、双子の妹たちのリクエストに答えて『どらどら焼きクン』なるキャラクターをお弁当で再現したらしい。
「コイツの魅力が俺にはサッパリわからんが……」
どら焼きに円な瞳と手足が生えている奇妙な生き物で、現在大流行中だとか。
俺には和菓子のクリーチャーにしか見えないが、雨宮家でも圧倒的支持率を誇っているようだ。
「雨宮さん、こういうの器用だよな」
楕円形のお弁当箱には白ご飯が詰められ、そぼろで茶色い丸がその上に描かれている。顔や手足は海苔で表現。双子それぞれの分で、表情が微妙に違う。
フォルムが単純とはいえ、どらどら焼きクンが見事にそこにいた。
ご飯以外のところに詰まった唐揚げや卵焼きも美味しそうだ。
雨宮さんの服のセンスは……その、お世辞にもいいとは言えないが、お弁当作りのセンスは素晴らしかった。
『おはよう、クオリティ高いな! さすが料理上手な雨宮さん!』
さっそく褒め褒め感想を返すと、すぐにまた返信が来る。
『よかった、次は晴間くんにもお弁当作りたいな』
「それはいつでも是非!」
鼻の下が朝から伸びる。
俺のカノジョは今日も最強無敵に可愛い。
そんな雨宮さんは今、キャラ弁以外にも挑戦しようとしていることがあって……そっちの応援をまずはしなくちゃな。
「……俺も起きるか」
エネルギーをもらって元気になった俺は、ダラダラするのは止めていつもより早く学校に行くことにした。
たまにはいいだろう、教室に一番乗りも。
歯を磨く頃には、雨宮さんが俺のために作ってくれるらしいキャラ弁のことで頭がいっぱいで……夢のことは、すっかり頭の片隅に追いやっていた。





